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「栄養失調と脱水症状で吐き気もして…」朝倉海の代役でRIZIN出場、39歳・昇侍が涙で語った“壮絶な舞台裏”「これが格闘技の世界の答え」
posted2022/07/06 11:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
RIZIN FF Susumu Nagao
不測の事態にここまで見舞われた格闘技イベントも珍しい。
2度目の沖縄進出となった、7月2日の『RIZIN.36』(沖縄アリーナ)。大会2日前、6月30日の午前中に発表されたのは朝倉海の欠場だった。古傷でもある右手の怪我によるもので、痛み止めを打っても拳を握ることができない状態。慢性的な負傷で、これを機に手術し万全にして復帰するというのが主催者サイドも含めた意向だ。
朝倉海はRIZINでもトップの人気選手。欠場を受け、チケットの払い戻しが決まる。PPV中継も事前予約分は返金、無料視聴可能という対処に。大会前日、RIZINの榊原信行CEOは数千万円単位の売上減になるだろうと語った。
朝倉海に敗れ、「親友」となった昇侍
台風の接近で雨と強風にも見舞われた。これで観戦をやめた人もいただろうし、会場にいても帰りの足やその時間の天気はどうしたって気になる。さらに大会当日、KDDIの通信障害。スマートフォンなどのデータ通信の不通はネット配信にも影響しただろう。会場でも、電子チケットのダウンロードができない観客への緊急対応が検討されたと聞く。細かいところで言えば、auの携帯電話を使用しているスタッフは当日の電話連絡が不可能で、そうなると大会のオペレーションにも影響が出かねない。
こういうイレギュラーな大会こそ記憶に残る、とも言えるわけだが、現実的にはマイナスのほうが大きい。海の欠場によって対戦カードも変更になった。
海と闘う予定だった韓国の新鋭ヤン・ジヨンは、大会直前になって対戦相手が変わるという事態に見舞われた。階級もバンタム級からフェザー級に。相手が大きくなるわけだ。それをヤンは受けた。
海の“代打”として出場することになったのは昇侍(しょうじ)。39歳のベテランだ。パンクラス、DEEPで活躍してきたが一度は引退も。MMAだけでなくキックボクシングの試合に出たこともある。
豪快に勝つこともあれば持ち味を出しきれないことも。勝ったり負けたり。大舞台にはあまり縁がなかったが、30代後半でチャンスがきた。2020年、朝倉海の相手として白羽の矢が立ったのだ。TKO負けとなったものの、この試合で縁が生まれ、昇侍は海と練習をするようになる。海のYouTubeにもたびたび登場している。今では「親友」だ。
急な減量でフラフラに…何でもするつもりだった
大会は土曜日。海の怪我を受け、最悪の場合は代打で、というオファーがあったのは月曜日だったという。これを昇侍は快諾した。もちろん試合用の追い込み練習はしていないし、短期間での減量も厳しかった。