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「武尊選手に惚れました。なんていい漢なんだ、と」那須川天心の“あの左フック”を完璧にとらえたカメラマンが選ぶ「武尊、最高の1枚」
posted2022/06/24 17:00
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph by
THE MATCH 2022/Susumu Nagao
あらためて試合の写真を見直して、敗れた武尊選手の気持ちの入り方に、こみ上げてくるものがありました。いったいどれだけの思いで、この試合に臨んだのか。「K-1の看板」だけではなく、もっと本質的な、人生そのものの重みを背負っているような……。私たちには想像もできないほどの重圧があったのは間違いないでしょう。
今回の『THE MATCH 2022』については、昨年12月24日の発表記者会見から試合まで継続的に撮影してきましたが、天心選手がときに笑顔も見せていた一方で、武尊選手はあえて感情を表に出さないように振る舞っていた印象があります。すべての退路を断って、この試合に賭けていた。ボクシングに転向する天心選手とはある意味で対照的に、「未来のことなんて考えていない」という覚悟を感じました。
当日計量で武尊が見せた「忘れられない表情」
少なくとも体重面に関しては、武尊選手の方が負担は大きかったはずです。58kgという設定はもちろん、「当日の戻しはプラス4kgまで」というリミットがどう作用したのか……。ギリギリまで神経をすり減らしていたことが、前日のリングチェック時の動きや、当日計量の際の顔つきから伝わってきました。
天心選手がTシャツを着て、いわば普段着の延長で体重計に乗ったのに対して、武尊選手はボクサーパンツ1枚で当日計量をパスしましたよね。「安堵」と表現していいのかわかりませんが、あの瞬間の彼の表情はちょっと忘れられません。
もちろん武尊選手は試合前から試合後まで一貫して、体重やルールについて一切の言い訳をしていません。プロフェッショナルとして黙々と成すべきことを行い、そして試合に臨んだ。その潔さが本当にカッコいいな、と。恥ずかしながら武尊選手の試合はずいぶん前に撮ったきりだったのですが、今回の試合を通じて彼のファンになってしまいました。
天心選手はプロデビュー前からずっと撮らせてもらっています。そのうえで感じたのは、今回が過去最高の仕上がりだった、ということ。前日のリングチェックで見せたステップの軽さ、体のキレ……。これまでになく素晴らしい動きだったと思います。