濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「栄養失調と脱水症状で吐き気もして…」朝倉海の代役でRIZIN出場、39歳・昇侍が涙で語った“壮絶な舞台裏”「これが格闘技の世界の答え」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2022/07/06 11:01
怪我の朝倉海の代役として急遽ヤン・ジヨンと対戦した昇侍。海はセコンドでサポートした
「昇侍さんには一生、足向けて寝れないです」
海は大会前、YouTubeでそう語っている。計量前日のことだ。昇侍は同じ動画で「しっかり治してほしい。こんなところで終わっちゃいけない選手なので。選手生命を潰してまで試合をやってはいけない」と海を気遣った。この動画自体、昇侍から持ちかけたものだったそうだ。
ジムと半身浴、サウナで「水抜き」する減量の最終段階でフラフラになる姿も公開した。普段なら人に見せない場面であり時間のはずだが、海のためなら、そしてRIZIN出場というチャンスのためなら何でもするつもりだった。大会直前に欠場を発表した海への批判をかわそうとしたのかもしれない。代わりに俺がやるから、それを見てくれと。
チョークにタップせず、ゴングが鳴っても動き続けた
ヤンも日本のファンに好印象を残した。昇侍と対峙すると、深々と頭を下げる。「この世界の大先輩ですから」。海の相手に選ばれただけあって、闘いぶりにも迫力があった。昇侍は1ラウンドから右眉から出血する苦戦。蹴りで対抗していった昇侍だが3ラウンドにはフロントチョークに捕まった。最後はリアネイキッドチョーク(裸絞め)。昇侍はタップしなかったため、レフェリーが試合を止めた。
ゴングが鳴る。昇侍は無意識に動き続ける。技を解いたヤンを抑え込もうと組み付いていったのだ。絞め落とされても闘争心だけが残っていた。そんな昇侍を寝かせ、足を持って介抱するヤンの姿も印象に残る。「大事に至らなくてよかった」と、彼は最後まで対戦相手を慮った。
もちろん試合だから、相手にダメージを与えるのは当然のことだ。インタビュースペースに現れた昇侍は右腕を包帯で固め、吊っていた。
「1ラウンドが終わった時点で尺骨が折れたのが分かっていました。でも折れたくらいで諦めるようなヤワな人間ではないので。海くんも年末、拳が折れた中で闘ってます。その姿を見ていたので、自分もここで諦めるわけにはいかないと」
試合後、涙を流して語った「悔しいですけど…」
そう語った昇侍。試合を受けた心境も語った。
「急なオファーで受けるかどうか迷いました。でも海くんが出られない緊急事態。日本の総合格闘技、このイベントを支えるための指名をいただいたのは光栄に思い参戦しました。ただ本当は簡単に出られるリングではないです。準備ができていない選手が勝てるほど甘い世界じゃない。マンガのヒーローみたいにはいかないです。これが現実、格闘技の世界の答えだと思います」