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脳内出血事故から4週間後に初優勝! Moto3の佐々木歩夢21歳を飛躍に導いたセルフマネージメント術《タイトル争いも視野に》
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2022/07/02 06:00
17年からフル参戦を開始して6シーズン目、キャリア通算95戦目にして初優勝を遂げた佐々木歩夢
しかし、第8戦イタリアGPで転倒し、運悪く後続車に首を轢かれ、左鎖骨、胸骨などを骨折。脳にも出血が認められる重傷で、シーズン前半戦の復帰は無理と言われた。それが3週間後の第10戦ドイツGPで復活し、優勝争いに加わって4位を獲得していた。
「イタリアGPで怪我をしてバルセロナの病院で検査を受けたときに、もし、3週間後のドイツGPに復帰して4位、連戦のオランダで優勝するなんて言われても信じられなかったと思う。毎年この時期にどうしてなのかわからないけど怪我をする。去年もイタリアで怪我をした。決勝は4位だったけど、次のカタルーニャGPで多重クラッシュで頭を轢かれて脳出血。ドイツとオランダを走れなかった。それが今年は本当にいいレースができた」
歩夢は今年のイタリアGPの決勝レース前に、「去年、事故で亡くなったジェイソンのためにも勝ちたい」と言っていた。その後、歩夢が事故に遭ったのは、去年、イタリアGPの予選で歩夢と一緒に多重クラッシュに巻き込まれて命を落とした、ジェイソン・デュパスキエの事故現場のすぐ近くだった。
昨年、予選で起きた多重事故の後、翌日の決勝レースが終わるまで歩夢はジェイソンが亡くなったことを知らされていなかった。レース終了後、事情を知った歩夢はチームのトラックの中で声をあげて泣き続けた。それを目撃して、どう言葉を掛けていいのかわからなかった僕は、優勝した歩夢にレンズを向けながら、そのことを思い出して涙が止まらなかった。
初優勝のウイニングランで、歩夢は、まるで勝ったのか負けたのかわからない感じでマシンに突っ伏した。「歩夢、あのとき泣いてた?」という僕の問いかけに「うん、ちょっとね」と彼は答えてくれた。脳出血という大変な怪我を負いながら、「ジェイソンと一緒にMotoGPに行きたい」という目標を果たすために、やっと初優勝にこぎつけた。そんな歩夢に、心から「おめでとう」という言葉を伝えた。
飛躍の要因はセルフマネージメント
歩夢はホンダ育成ライダーのひとりで、アジアタレントカップ、ルーキーズカップといったグランプリ育成シリーズでチャンピオンになり、早くから将来を嘱望されていた。しかし、Moto3クラスをホンダで戦った3年間は思うような結果を残せず苦戦。それがKTMに乗り換えてからは、「自分の乗り方に合っている」と本来の速さを発揮するようになった。