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「インタビューは難しい」20年前日本代表を苦しめた、あのベルギー代表FWヴィルモッツ53歳は今…母国のヒーローがマスコミ嫌いになった事件 

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井川洋一

井川洋一Yoichi Igawa

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photograph byAFLO

posted2022/06/30 17:25

「インタビューは難しい」20年前日本代表を苦しめた、あのベルギー代表FWヴィルモッツ53歳は今…母国のヒーローがマスコミ嫌いになった事件<Number Web> photograph by AFLO

2002W杯初戦、後半12分にバイシクルシュートで日本代表から先制点を奪ったベルギー代表のマルク・ヴィルモッツ(当時33歳、右)。53歳になった彼は今何をしているのか?

「体の調子を訊かれたから、悪くないと答えたんだ」とヴィルモッツは楽しそうに過去を思い出す。「するとプラハでの第2戦に帯同してくれと言われてね。ベンチにいるだけでいいと言われたのでそうしたら、なんと前半のうちにウォームアップを命じられたんだ。この監督は狂っているのかと思ったよ(笑)」

 そして64分に投入されると、86分にPKのチャンスが訪れ、「誰も蹴りたがらなかったので」ヴィルモッツがスポットにボールを置き、きっちりとネットを揺らした。

「率直に言って、体は万全から程遠い状態にあった」と53歳になった彼は続ける。「でもそれまでに様々な経験をしていたし、97年にはUEFAカップを制して自信を深めていた。だからそんなコンディションでも、重要な場面で結果を残せたんだと思う」

 ワセージュ監督から請われた時には、こんな口約束を交わしたという――W杯出場権が獲得できるまでは精一杯やるが、予選を突破できたら、自分の役目はそこで終わりにする、と。

「自分はすでに3度、W杯を経験していたから、若手にポジションを譲りたいと考えていた。だから監督に、『これで私の仕事は終わった。今からメディアに、代表から引退すると話してくるよ』と伝えたら、またしても引き止められたんだ。『ノー、ノー! ベンチにいるだけでいいから、本大会にも来てくれ』と。ロベールにはスタンダール・リエージュでも指導されたことがあり、彼は私の扱い方を心得ていたんだね」

「日本はポジティブなカルチャーショックだった」

 ところがヴィルモッツは本大会まで3カ月を切った段階で、ひざの半月板の手術を余儀なくされることになった。

「これで私が日韓大会に出られるチャンスはなくなったと思った。周りもそう考えていたよ。でも監督だけはこの時も別の捉え方をしていたようだ。再び、ベンチにいるだけでいいから来てくれ、と言われたよ」

 キャリアを通じて「12度」も手術を受けたヴィルモッツは、「自分の体のことはよくわかっていた」という。「随分前に痛み止めを飲むことを止め、体のサインを感じ取れるようにしていたからだ」と説明する。

 そんな状態のヴィルモッツが本戦で全4試合にフル出場し、計3得点をマークできたのは、「日本のおかげ」でもあったようだ。

「(合宿地の熊本に)火山があって、オフには泥温泉でリカバリーをした。あれで本当に癒されたよ」

 当地の人々の手厚いもてなしには、「今でも感謝している」と言い、「日本と引き分けて戻ってきた時でさえ、盛大に迎えてくれた。欧州では起こり得ないことだ。私たちにとって、それはポジティブなカルチャーショックだった」と続ける。

「いただき!」心の中で叫んだ

 日本戦で決めた鮮やかな先制点については、「長年の反復練習の成果だ」と明かす。

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