「私はチームトレーニングの後に、ひとりでよく浮き球を仕留める練習をしていたんだ。だからあのボールが向かってくる時、『いただき！』と心の中で叫んでいた。うまく入って、最高の気分だったよ」

　初戦が2-2の引き分けに終わったことは、「日本とベルギーの双方にとって良い結果だ」と感じていた。その後、どちらもグループを突破し、日本はトルコに、ベルギーはブラジルにラウンド16で敗れている。

「W杯のような大会では、然るべき時に幸運を味方にしなければならない」とヴィルモッツは話す。

「日本のトルコ戦も、私たちのブラジル戦も、運を手繰り寄せたチームが最後に勝利を収めたと思う。また、勢いも大事だが、足元を見つめて戦うことも重要だ。私は当時、すでに多くの経験を積んでいたから、W杯に臨む際に『世界一になる』などとは絶対に言えなかった。物事には順序があり、ひとつずつステップを踏んでいくしかないとわかっていたからだ。グループを勝ち上がって熱狂に包まれていた日本では、もしかしたら選手に心の隙が生まれていたのかもしれない」

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　ベルギーと日本は前回の18年大会のラウンド16で再戦した。日本では“ロストフの悲劇”とも呼ばれるドラマティックな逆転負けについて、ヴィルモッツは次のように見ている。

「02年大会以降、香川真司を筆頭に、多くの日本人選手が欧州に渡り、活躍してきた。彼らがその経験を日本代表に還元し、チーム全体も発展を遂げてきたと思う。ただしあの一戦では、まだまだ足りないものがあると痛感したことだろう。場数を踏んで、経験していかなければ、わかり得ないことはある。黄金世代のベルギーを相手に、後半終了間際にCKを得た時、上背で劣るチームなら、延長とPK戦まで見据えて戦うべきだったと思う。両チームの空中戦の強さを考慮すれば、日本がCKで得点できる可能性は、10回に1回くらいだったはずだ。だが日本は、無闇に試合を決めようとした結果、教科書通りの逆襲を受け、劇的な逆転負けを喫した。悔しい結末には違いないが、そこで学んだことも大きいだろう。

昨年11月からモロッコの名門ラジャ・カサブランカの指揮を執っていた。今年2月に解任　©Getty Images

　日本代表は着実に進歩していると思う。私がプロデビューしたシント・トロイデンは日本人が実権を握るようになり、今では多くの日本人選手が所属している。そこで活躍すれば、他国にステップアップすることもできる。こうした取り組みは、間違いなくポジティブなものだ。私にも何かと縁があるので、これからも日本のサッカーに注目していきたいと思う」

　そう話すベルギーのレジェンドは、現在の充電期間を終えたら、また現場に復帰する意欲も見せている。いつか「何かと縁のある」日本と、再び邂逅することもあるかもしれない。