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反対16カ国も「シニア昇格年齢引き上げ」が可決…新ルールで五輪出場資格が消えた“荒川静香以来の天才少女”とは?
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA、AFLO
posted2022/06/10 11:01
国際スケート連盟(ISU)総会において、フィギュアスケートのシニアのカテゴリーに出場できる年齢の引き上げが決まった
ISUは、今回引き上げ決定に「それ以前からの議論」として直接的影響について肯定的ではないが、総会の議題にあげようと進めたのは北京五輪閉幕直後の3月であったことが伝えられている。海外メディアも年齢引き上げ決定について、ワリエワのドーピング問題を関連付けて報道している。
シニアの昇格年齢引き上げ→問題解決、になるのか?
競技人生をより長いものにしたい、成長途上で過度に負荷のかかる強化に励む傾向に歯止めをかけたい。そうした観点から、シニアの昇格年齢引き上げに動いたであろうことは、一定の評価がなされるべきだろう。ただ、依然として課題は残る。むしろ、根本的に解決には至らないはずだ。
成長しきる前の身体であればジャンプが跳びやすいことをいかしたうえに、ザギトワが平昌大会では水分すら満足にとれなかった趣旨の話を語っているのが象徴するように、過度な体重維持や制限という無理を重ねてロシアの若年層の選手の活躍があった。
今回のルール改正が単純に「15歳から17歳になるだけ」なら、それは選手たちの競技人生がこれまでより長くなることを約束するものではないし、また選手の健康問題をよりよくすることにもつながらない。なぜなら「ジャンプの高難度化」「採点方式」という問題とどう向き合うかというテーマも孕んでいるからだ。結局のところ、「十代半ばが上位を占める、そこでピークを迎えて燃え尽きる」は、ジャンプが大きくかかわっている。
なぜ「17歳なのか?」という議論は尽くされたのか?
また、シニア昇格年齢引き上げ案の「17歳」という提示やその議論について、どこまで客観的視点に基づく裏付け調査がなされたのかという点も気がかりだ。女子選手の低年齢化問題の背景には何があるのか、ジャンプの高難度化をはじめとする問題が身体あるいは心にどう影響しているのかなど、具体的なデータや聞き取り調査などがあっての建設的な議論であったかどうか。説得力をもって、「だから17歳なのだ」という説明はあってほしいところである。
なぜなら、今回のシニア昇格年齢引き上げによって、選手人生において影響を受ける選手たちも少なくないからだ。