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反対16カ国も「シニア昇格年齢引き上げ」が可決…新ルールで五輪出場資格が消えた“荒川静香以来の天才少女”とは?
posted2022/06/10 11:01
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto/JMPA、AFLO
6月7日、国際スケート連盟(ISU)総会において、フィギュアスケートのシニアのカテゴリーに出場できる年齢の引き上げが決まった。
「スケーターの心身の健康と精神的健康を保護するために」という目的からISU理事会が提案していたもので、現在はシーズンに入る7月1日に15歳に達していることがシニアの大会に出られる条件となっていたが、2022-2023シーズンは従来通り、2023-2024シーズンは16歳、2024-2025シーズンには17歳と段階的に引き上げられることになる。賛成は100、反対16、棄権2で、反対を表明した国もあったものの圧倒的多数で可決された。
トップ選手が10代で引退…“早すぎる競技離脱”の問題
今回に限らず近年、年齢制限の引き上げについてはしばしば議論が起こっていた。2018年にはオランダがISU総会で提案している。その背景にあった最も大きな要素は、今回、反対に回ったとみられるロシアにほかならない。
2014年ソチ五輪で団体金メダルに貢献したユリア・リプニツカヤは、しかし、摂食障害などにより19歳の若さで現役を引退することになった。また2018年平昌五輪金メダルのアリーナ・ザギトワは翌シーズンこそ世界選手権で金メダルを獲得するなど活躍したが、その後すぐに競技から離れて今日に至っている。ロシア国内では女子の有力選手による“早すぎる競技離脱”が顕著に見られるようになったのだ。事実、トリノ五輪の荒川静香を除けば1994年のリレハンメル五輪以降の金メダリストは、全員十代の選手。近年はさらにその傾向に拍車がかかっていた。そのため、各国からシニア昇格年齢の引き上げ検討を求める声が頻出するようになった。
ルール改正を後押しした「北京五輪のワリエワ事件」
その上でこの時期の決定に至ったのには、北京五輪でのカミラ・ワリエワのドーピング問題も少なからず影響している。北京五輪大会期間中に発覚した、ロシアのワリエワによるドーピング疑惑は大騒動に発展してものの、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に判断が委ねられ出場を認める裁定が出ていた。その理由の1つには、ドーピング規定にある「16歳未満は要保護者」という規定があったと説明されているが、ここで選手自身が責任をとれる年齢とシニアの昇格年齢は同じべあるべきでは、という意見が上がったという。