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[快腕が語る究極の投球論(1)]大野雄大「“最長完全未遂”よりも」
posted2022/06/04 07:04
text by
渋谷真Makoto Shibutani
photograph by
Ichisei Hiramatsu
スコアボードには18個の「0」が整然と並ぶ。9回完全投球を果たした左腕への援護点は「0」。快挙こそ逃したが10回120球1安打、失点は「0」。タフなマウンドで、エースが見せた矜持とは――。
完全試合には定義がある。NPB記録部の内規には「先発投手が完投で9イニング以上を投げて、最後まで走者を許さない」とある。つまり継投は認められておらず、それは延長戦でも例外ではない。走者を出さないこと自体がレアなのだが、加えて9回で決着がつかない極めてレアなケースが、5月6日の阪神戦(バンテリンドーム ナゴヤ)での中日・大野雄大だった。
すでに6回を投げ終えたあたりから、2万5397人の観衆は、大記録のにおいを感じていた。あと3イニング、9人。いや、本当にそうなのか? 両チームスコアレスだと気づいた一部の観客が、スマホを操り、達成条件を検索していた。代わったらダメなのか? 大変だ! 1点でいい。とにかく取れ。
援護点がない以上、その緊迫感は大野が投げる表だけでなく、裏の攻撃でも同じだった。見つめる観客が手に汗握っていた頃、すでに大野はベンチでひとりぼっちになっていた。
「話しかけてくる選手は誰もいなかったですね(笑)。自分でも5回、6回投げて抑えた頃には『これ、あるんちゃうか?』って思いがあったんです」
連続完投勝利で名古屋に乗り込んできた阪神の先発・青柳晃洋もまた、絶好調だった。昨夏の東京五輪・野球日本代表の金メダリスト同士による緊迫した投手戦。試合が動きかけたのは8回、中日の攻撃だった。