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オリンピックPRESSBACK NUMBER
盟友・小平奈緒のレース中に放送席で…イ・サンファが明かす北京五輪“あの涙の理由”「ナオの姿には自分の姿も映って見えた」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byMark Hoffman/USA TODAY Sports/Sipa USA/JIJI PRESS
posted2022/06/03 17:04
いまだ破られないスピードスケート女子500mの世界記録36秒36を保持したまま、19年に引退したイ・サンファさんに、小平奈緒との関係やエピソードを聞いた
「試合では勝つことも、負けることもあります。トップを守るのは難しいこと。けれども、私にとってライバルができたということは目標ができたということです。リンクの中ではライバルであっても、リンクの外では友だち。ライバルであって、友だちでもある存在がいることで、私も挑戦できます。ナオがいるからこそ、私も一歩先に行けると思うのです」
北京五輪前、小平に送ったメッセージ
李さんは小平との関係性を「友だちやライバルというだけではなく、同僚というイメージが近いかもしれません」と言う。試合で競う選手はみな、“スピードスケート界の同志”という考えだ。その中でもやはり小平は特別な存在だ。
「中学生の頃から切磋琢磨してきた間柄ですから」
実は、4年前の平昌五輪の直前は、あえてほとんど言葉を交わさなかったという。そこには李さんならではの小平への気遣いがあった。
「平昌五輪の時、ナオはすごく(調子が)良かったのですが、反対に私はあまり良くなくて感覚を失っていました。だから、ナオの邪魔をしたくなかったのです」と当時を振り返る。
それから4年が過ぎ、今年2月に北京五輪のテレビ解説のために北京入りした時も、李さんは競技者としての小平を尊重し、試合前は最小限の言葉のみをメッセージで伝えた。
「試合を直前に控えた選手に話しかけるのは礼儀じゃないと思っています。ですから北京五輪の前は『あなたのレースのみを考えて。隣のコースの選手を意識しないように』とだけ伝えました」
トップアスリートらしい、ソフィスティケイトされた行動だった。
小平のレース中に…あの涙の理由
こうして迎えた北京五輪本番。李さんはリンクのテレビ解説者席で小平のレースを見つめた。小平は号砲が鳴り響くと、いつものように低い構えからスタートを切った。しかし、勢いがなかった。一歩目の蹴りでミスしたのだ。小平は1月中旬に足首を酷く捻挫し、2週間近く練習をできないほどの重傷を負っていたことを隠して五輪に挑んでいた。