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「一体、私は誰のために滑っているのか」止まない誹謗中傷、挫折…どん底の本田真凜を救った“浅田真央の1時間レッスン”
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byMiki Fukano
posted2022/05/30 11:04
フィギュアスケーターの本田真凜。「浅田真央2世」と呼ばれた天才少女の今に迫るロングインタビュー
「完全にスイッチが自分の中で切れていたので、『さあシングルに戻るぞ』となったとき、なかなか気持ちを戻すことができなくて。本当にリハビリ状態というか、ゼロからのスタートですよね。毎日練習には行くけど、出来なくなっていることが多すぎて悲しくなって帰る、みたいなのをずっと繰り返していました」
そこから脱け出すのは、容易ではなかった。
「8月くらいまで迷っている期間が続きました。そこからだったので、ほんとにどうしようという感じで試合に行って」
その試合、10月上旬の東京選手権を12位で終え、なんとか上位15名以内が進める東日本選手権出場権は得られた。アイスダンスに取り組んでいた期間、ジャンプは一切跳んでいなかったし、シングルとして再開後もスイッチが入ったと言い切れないまま。気持ちが戻らないのは、本田の中で1つの疑問がぬぐえなかったからだった。
「一体、私は誰のために滑っているのか。それが分からなくなって、ずっと、私を応援してくれる人なんて本当はいないんじゃないかと考えていました」
そんな時に、本田に手が差し伸べられた。気持ちが落ち込み続ける中で、連絡をくれたのは浅田真央だった。
浅田真央が変えた「応援している人はたくさんいるんだよ」
「『真凜は元気かな?』とご連絡いただいて。1時間以上、2人でじっくりお話しして、練習も何度か見ていただきました。本当に、こんなに素晴らしい人っているんだなと」
その中で浅田は本田に語り掛けた。「私も含めて、真凜のことを応援している人はたくさんいるんだよ」と。
「何回も言ってくださって。思えば、それがきっかけでした」
家族も驚いた変化「『一回スイッチが入ったらすごい』って」
迎えた東日本選手権で5位となり、全日本選手権出場を決めた本田は、浅田との交流をきっかけに変化していく。その1つは「恐怖心があった」というジャンプへの向き合い方だった。
「一般滑走に行って、周りのお客さんと1時間以上回ったり、1日に6時間ずっとリンクにいました。だけど何百本と跳んでも着氷できるのがゼロとか1とかそういうレベル。逆にここまで落ちたら楽しいな、っていうくらい(笑)。ダブルループを跳ぶのにすら1週間かかりました。そこからトリプルを試合で跳ばないといけないというのは本当にハードルが高くて」