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「一体、私は誰のために滑っているのか」止まない誹謗中傷、挫折…どん底の本田真凜を救った“浅田真央の1時間レッスン”
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byMiki Fukano
posted2022/05/30 11:04
フィギュアスケーターの本田真凜。「浅田真央2世」と呼ばれた天才少女の今に迫るロングインタビュー
「『私にとってスケートって何なんだろう』というのをずっと考えていました。小さい頃からフィギュアスケートに限らず、習い事もたくさんやってきたんですけど、その中でスケートの何が好きなのか。考えて考えて、それはやっぱりたくさんのお客さんの前にたった一人で広いリンクに立って演技ができること、みんなが見てくれることなんだろうなって。
だから、コロナになって誰もいないリンクにカメラだけ向けられると、緊張感がなくなるというか、モチベーションが上手く維持できなかったんです」
コロナに揺れる2020-2021シーズンは進み、全日本選手権を迎える。だが体調不良により棄権を強いられた。葛藤は頂点に達した。
「スケートから離れたくなりました。やめたいと思いました」
本田真凜を引き留めた“ある選手の一言”
その時、兄の太一に連絡をくれたある選手がいた。
「もったいない、やめさせたくない、と言ってくださったんです。一スケーターにそう言っていただけるというのは、まだ自分のスケートというものに魅力があるのかなと思えました。スケートの世界に呼び戻してくれて、本当に感謝しています」
そのスケーターの勧めで、アイスダンスにも取り組んでみたという。
「アイスダンスの靴も買いました。シングルと靴もぜんぜん違うんですよ。やっていたことは主にスケーティングでしたけれど、体重の乗せ方も違いました。
(アイスダンスへの)転向も真剣に考えていましたよ。ただ自分自身の気持ちだけで決断できることではありませんでした」
こうして、アイスダンスへの転向は断念した。葛藤が頂点に達していた中で見えていた新しい道は開かなかった。
何も分からないまま復帰「私は誰のために滑っているのか?」
「大学の春休みと被っていたので、何もせずに過ごしていました。誰にも会いたくない、みたいな感じになって……」
それでも出演を予定していた春季のアイスショーが近づいていたこともあり、やがて練習を再開した。