田中のアピールポイントは球速や将来性以上に、「勝利への執着心」にあるのかもしれない。試合後、報道陣から球速への意識について聞かれた田中は、こう答えている。

「球速は調子がよければ勝手に出るものだと考えています。一番は抑えることで、最大のテーマにしています」

　この言葉に田中の投手としての信念が透けて見える。日本文理は昨夏の甲子園にも出場したものの、敦賀気比を相手に被安打15、失点8と打ち込まれた。この冬、田中は「完璧に近づける練習を意識してきた」という。

「高校での2年間を通して試合を作れるピッチャーにはなれたのかなと思うので、1試合通して完璧に抑えて、完封することが今のテーマです」

©Takahiro Kikuchi

想起する“佐々木朗希の姿”…「すごく参考になります」

　リードする捕手の竹野は「打たせて取るところは打たせて、ピンチになればギアを入れる。ピッチングに強弱をつけられるようになってきた」と田中の成長を実感する。昨年までは外角中心の配球だったが、今年に入って内角にも強いボールが制球できるようになったという。

　力感なく、快速球をコーナーに集める投球スタイルと言えば、佐々木朗希（ロッテ）が思い浮かぶ。もちろん、力感なく160キロを投げてしまうような怪物と比べられるのは重荷でしかないだろうが、田中が佐々木をどう見ているのか興味が湧いた。

　田中は苦笑いを浮かべながら、佐々木について語ってくれた。

「自分のイメージ通り投げている印象があります。球種はストレートとフォークのほぼ2種類なのに、バッテリーの思うまま三振が取れている。イメージ通り体を動かすというところはすごく参考になります」

　試合後には、本間コーチと投球感覚について話し込む光景も見られた。年上のコーチにも臆することなく自分の考えを伝える姿は、高校生には見えない。鈴木監督も本間コーチも、田中のクレバーさを認めている。

　本間コーチは田中に対して「結果ばかり気にせず、小さくなるな」とアドバイスを送っているという。

　夢の詰まった大きな肉体、バランスと柔軟性に優れた投球フォーム、類まれな思考力、野手としての豊かな可能性。秋が深まる頃、田中晴也の名前は今まで以上に大きくクローズアップされているはずだ。

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