オリンピックPRESSBACK NUMBER
柔道があまり好きではなかった13歳の少年を変えた“偉大な父の死”…斉藤立(20)史上初の親子日本一「パリでは父と同じ場所に立ちたい」
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byAFLO SPORT
posted2022/04/30 11:04
体重無差別で日本一を争う全日本選手権で初優勝を果たした斉藤立(20歳)。世界選手権100キロ超級の日本代表に選出された
亡くなって7年。今でも悩んだり、迷ったときには、天国の父に問いかけることがある。
「技術面のこととかで悩んでいるときは、父だったらなんて言うんやろうとか、むちゃくちゃ考えますね。いろいろな方にアドバイスをいただくときにも、父だったらなんていうんだろう……とか」
仁さんがロサンゼルス五輪やソウル五輪で金メダルを獲得したときの映像なども、実家にあるビデオでよく見ていたという。今もYouTubeで父の試合映像をチェックし、ヒントを得たりすることもある。父の執念が現れるような試合の数々からはおおいに刺激を受けた。
「自分が柔道と真剣に向き合うようになって、初めて父の試合映像を見たときに、どの選手にもないバネや爆発力には衝撃を受けました。父が亡くなってしばらく経ったときに、すごく悩んでいた時期があったんですが、その時は暇さえあれば父の試合の映像を見ていました。今も父の試合の入りはどんな感じなんだろうと気になって見たり、参考にしたりすることもあります」
首を振りながら歩いて畳に上がり、両手を大きく上げて挑んでいく姿は仁さんを彷彿とさせる。父親譲りの柔らかな身のこなしと豪快なスタイル。父を知る人たちから「似ている」と言われることもよくある。
「自分はあまりそういうふうには思ってないんですけど、『そっくりやな』ってよく言われます。でも、まだまだ。父には全然近づけてないです」
父と“同じ場所”に立ちたい
昨夏の東京五輪はテレビ越しに観戦。父も立った舞台に思いを馳せた。
「この舞台で、何が何でもメダルを獲ってやる、一番高いところに立ってやるという気持ちがより一層強くなりました。パリ五輪では父が立っていた場所と同じところに立ちたい、とも」
全日本選手権で優勝し、34年前の父と同じ場所についに上り詰めた。今秋、タシケントで開催される世界選手権の100キロ超級の代表に初めて選ばれた。
だが、決して満足してない。もちろん、慢心もない。彼は日本一になる前からこう話していた。
「ここからはより一層謙虚にいかないと。父にもよく言われていたんですよ。『謙虚になれ』って」
最重量級の期待のホープは結果に甘んじることなく、2年後の大舞台へ向け一歩ずつ、着実に前へ進んでいく。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。