4コーナーを回りながらサクラローレルが先頭に並びかけ、直線へ。その外からマーベラスサンデーが馬体を併せに行く。

「あれはハメたんだよ」名手・田原の矜持

　直線入口でサクラローレルが先頭に躍り出た。その外に武の左鞭を受けたマーベラスサンデーが馬体を併せ、叩き合いに持ち込もうとする。鞭を持ち替えた横山も、右ステッキを入れて、ガチンコ勝負の叩き合いに応じた。

　内のサクラローレルか、外のマーベラスサンデーか。ラスト200m手前では、この2頭に覇権争いが絞られたかに見えたが――。

　大外からマヤノトップガンが凄まじい脚で伸びてきた。

　トップガンは、手綱を絞った田原の左ステッキに応えて豪快にストライドを伸ばし、内で叩き合う2頭に圧倒的な速度の差を見せつけ、差し切った。

激しく叩き合うサクラローレルとマーベラスサンデーを大外からまとめて差し切ったマヤノトップガン　©Sankei Shimbun

　ゴール直後の投げキッスなど、派手なパフォーマンスで話題になっていた田原も、このときはガッツポーズをせず、愛馬のたてがみを撫で、首筋を軽く叩いて讃えてやるだけだった。単なる脚質転換にとどまらない、トップガンの真の力を引き出すプロセスは、先に述べたように、このレースに始まったことではなかった。積もり積もった疲れに、どっと襲われたのだろう。

　勝ちタイムは3分14秒4。従来の記録を2秒7も更新する当時のスーパーレコードだった。

　1馬身1/4差の2着がサクラローレル、そこから半馬身差の3着がマーベラスサンデーという、人気を入れ替えた三強の1-2-3フィニッシュで決着した。

マヤノトップガンの力を引き出した会心のレース後、疲労をにじませながら引き揚げる田原成貴　©Tomohiko Hayashi

　後日、筆者が田原に「トップガン、見事にハマりましたね」と言うと、田原は小さく首を横に振ってこう答えた。

「あれはハメたんだよ」

　その笑顔に、名手の矜持が感じられた。

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