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甲子園の風BACK NUMBER
立浪和義はPL時代「甲子園決勝の朝も欠かさず草むしり」 名将・中村順司75歳が思い出す“一度だけ叱った日”と春夏連覇伝説
text by
間淳Jun Aida
photograph bySankei Shimbun
posted2022/04/24 11:01
甲子園で大活躍したPL学園・立浪和義
周知の通り、中村さんが率いたPL学園からは、KKコンビと呼ばれた桑田真澄さんと清原和博さんをはじめ、元ヤクルト・宮本慎也さん、日米で活躍した松井稼頭央さんや福留孝介さんら、数多くのプロ野球選手が誕生している。
立浪に「ちょっと風呂見てこい」と伝えたら
中でも記憶に深く刻まれている選手が、今シーズンから中日の監督を務めている立浪和義さんだ。中村さんは、高校時代から気配り、目配りに長けていた立浪さんのエピソードを明かした。
「ある日、PL学園の寮に来られた他校の監督さんから風呂に入りたいと言われました。そこで、立浪に『ちょっと風呂見てこい』と伝えたら、5分後くらいに『大丈夫です』と。その監督さんが風呂から上がった後に『PLの強さの理由が分かりました』と言われました。理由を聞いたら、椅子の上にタオル、せっけん、シャンプーが準備してあったと。立浪は周りを見て、先が読める選手でした」
立浪さんは、中村さんから「爪切りを取って」と言われれば、すぐに切れる状態にして手渡し、「スコアブックあるか?」と声をかけられれば、中村さんが見たいページを開いて渡したという。成功には理由や根拠がある。日頃の行動が野球につながる。中村さんは東海大静岡翔洋の女子選手たちに語りかけた。
グラウンドを蹴った立浪の態度に……
中村さんがPL学園を率いた当時、チームの主将は選手間の投票で選ばれていた。主将を務めた立浪さんは、仲間からの人望も厚かった。中村さんは歴代の主将に「グラウンドで俺に大声を出させるなよ」と繰り返していた。常に周囲に気を配る立浪さんは、期待以上に“監督の代役”を果たした。
ただ、主将になる前に一度だけ叱ったことがある。
「中継プレーの練習で、外野からショートを守る立浪への送球が悪かったんです。うまくボールを捕れなかった立浪は、グラウンドを蹴ったことがありました」
中村さんは立浪さんの態度を指摘し、こう伝えた。
「外野からの送球が悪い時にカバーするのもショートの見せ場。仲間のミスをカバーして、うまくつないでやれよ」
翌日、立浪さんの言動は変わっていた。中継に入った時に外野手の送球ミスで捕球に失敗しても、チームメートに手を上げて「ごめん、ごめん」、「悪い」と謝った。中村さんが立浪さんを叱ったのはそれが最初で最後だった。