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小平奈緒はなぜ愛されるのか? 15年追った記者が見た“希有なアスリート”の実像「小平の前では誰一人、敗者がいなかった」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byJIJI PRESS
posted2022/04/20 06:00
10月のラストレースをもって引退を表明した小平奈緒。会見で語られた言葉の端々から、彼女が愛される理由が伝わってきた
「スケートを滑っていて違和感が残る部分として、アスリートが特別な存在、遠い存在になってしまうところを感じていました。もう一歩踏み込んだところにスポーツの良さ、気持ちでつながれるところがあると思っています」
違和感をなくす糸口を見つけたのは、2019年10月の台風19号で被災した長野のリンゴ農家でのボランティア活動。小平が感じたのは、力になりたいと思って行ったはずの自分が被災した人々から力をもらっているということだった。
「人は支え合いながら、思いやりあいながら生きるのだと実感したのがボランティアでした」
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勝利を求めてギリギリの戦いを繰り返すアスリートが「やさしさ」を軸にするのは、至難の業と言える。小平の根っからのやさしさは、時々見ている人を心配させていたほどで、ソチ五輪の頃には、「思いやりを持ったり、優しくなったりすると強くなれないよと、岡崎(朋美)さんや(清水)宏保さんから言われたことがある」と語っていたこともある。そして小平自身も、変革のヒントを見つけようと思い切った決断をしたことがあった。
平昌で圧勝の金メダルも、敗れた李相花には…
2014年春から2016年春までの2年間のオランダ武者修行だ。師事したのはマリアンヌ・ティメルコーチ。現役時代、殺気を帯びるほどの集中力で五輪の金メダルを手にした名選手である。小平はティメルコーチから「相手を殺すつもりで滑りなさい」と教わった。
オランダから帰国した小平は飛躍的に実力を伸ばしていた。2016年10月から国内外で連勝を続け、W杯でも無敵の強さを誇るようになった。日本で長年培ってきたカーブの技術に、オランダで鍛えて伸ばしたストレートの技術が加わり、無敵の状態となった。古武術からヒントを得て編み出したスタートのフォームで爆発的なダッシュ力も手にした。こうして迎えた2018年平昌五輪。小平は女子500mの金メダルを獲得した。2位と0秒39差の圧勝。低地のリンクとしては驚異的な36秒94の五輪新記録だった。