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小平奈緒はなぜ愛されるのか? 15年追った記者が見た“希有なアスリート”の実像「小平の前では誰一人、敗者がいなかった」 

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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photograph byJIJI PRESS

posted2022/04/20 06:00

小平奈緒はなぜ愛されるのか? 15年追った記者が見た“希有なアスリート”の実像「小平の前では誰一人、敗者がいなかった」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

10月のラストレースをもって引退を表明した小平奈緒。会見で語られた言葉の端々から、彼女が愛される理由が伝わってきた

「生まれ持った体を、スケートというスポーツで使いこなすことに面白みを持っているので、今までと同じモチベーションで練習に取り組みます」

「地域と関わりを持ちながら過ごしてみたい」

 シーズン開幕戦をラストレースにすることに加えて、地元で滑ることに最大のプライオリティーを置いたが、その背景には、次世代スケーターたちへの思いが多分に含まれている。

「昨年(2021年)夏頃から、オリンピックで終わりにするのはもったいないと思うようになっていました。開幕戦である全日本距離別選手権の500mをラストにしようと思った理由は、現役アスリートとして地域と関わりを持ちながらシーズンを過ごしてみたいと考えたことです。次の世代にバトンタッチするにもすごくいい機会だと感じました」

 最速を目指して世界を転戦している中ではなかなか出来なかった、次世代スケーターたちとのふれあいが小平の視野にある。スピードスケートの基本練習は隊列を組んでの滑走。技術を極める小平の後ろについて滑ることは、世界一の授業になる。コーナーの入り口や出口では、たった一歩で一気に差をつけるコース取りを目の当たりにできる。世界トップレベルのスケーターの滑りを超至近距離で体感することは、ジュニアにとってこの上ない経験だ。

 しかも小平は、「隣の奈緒さん」のイメージでやりたいという。

「オリンピックで金メダルを獲った特別なアスリートというのではなく、地域で頑張っているアスリートとして身近に感じていただきながら、皆さんの心に、穏やかな炎をともせるような存在でいられたらいいと思っています」

「やさしさ」を軸にし続けた希有なアスリート

 このように考えるようになったのには理由がある。小平は言葉を選びながら説明する。

【次ページ】 平昌で圧勝の金メダルも、敗れた李相花には…

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