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元プロ野球選手は「フォロワー29万人」をどう活かす? “可愛すぎるスラッガー”谷口雄也がファイターズ新球場“PR担当”へ転身した理由
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph byH.N.F.
posted2022/03/25 11:06
昨季限りで現役を引退し、現在は2023年に開場する新球場のPR業務に奔走する谷口雄也氏
現役時代、ファイターズが開催する女性を対象としたイベントでは、常に人気投票の上位に顔を出していた谷口氏の魅力。そして彼の親しみやすい人柄から来るファンの多さと、発信力には見過ごせない力があったということだろう。
谷口氏は語る。
「私の場合ですと、最初は野球の成績ではなくて野球以外のこと……これはメディアの皆さんのおかげでもあるのですが、女優の誰々さんに似ているとか、女性ファンが多いとか、そういうところから始まったので(苦笑)。
ただ、今になって感じるのは、谷口という選手にたくさんの声援を送ってくださったファンの方々がいて、そのおかげで引退セレモニーの機会までいただくことができました。それが今の仕事に繋がっていることは間違いありません。SNSフォロワーの多さというのも、少なからず評価していただけたのかなと思っています」
とはいえ、高校を卒業後、ずっと野球一筋だった谷口氏。まだまだ苦労は多いと話す。
「もう、とにかく今まで本当に野球しかしてこなかったので、まずパソコンの使い方からですね。あとは名刺の渡し方も習いました。見よう見まねで、皆さんの仕事ぶりを見て学んでいるという感じです。試合を開催するのにどれだけの人が関わって、どんな流れで行われているのかを知ると、これだけ多くのスポンサーの方がいて、グッズを考えて、作る人がいて……。その一つ一つにいろいろな方が関わっているということを知って、これまで野球だけやっていた自分からしたらとても新鮮です。
今は元野球選手としての私の価値を球団がうまく使ってくださっていて、お仕事ができている段階だと思います。そこは周りの環境に自分が甘えているところでもあるのかな、と。いつか、元選手というのが全く出ないところで、普通の業務に普通に携わっていられるように早くなりたいなとは思っています」
新球場に生かされる“元選手の視点”
谷口氏は「元選手」の肩書がなくとも仕事ができるようになりたいと話すが、ともに働いている企画PR部のトラン・ティ・美蘭氏の見方は少し違う。
「谷口さんには元選手としての経験があって、元選手としての目線がある。それは彼にとっての大きな強みだと思います。たとえば新球場に誕生するクラフトビールが飲める客席について、私たちはビールを飲みながら野球が見られるというところに最初に着目しますけど、彼からは“打者の位置からはどう見えるのか”“打席に入った際にプレーの邪魔にならないか”という意見が出る。それは私たちには全くない視点なんです」
元選手の着眼点が戦力になる。元選手というメリットを最大限に生かしつつ、企画PRの分野でも活躍できることが理想だろう。
前沢事業統轄本部長は語る。
「今はまだ遠慮をしながらやっているところだと思います。ビジネスサイドに来たプロ野球のOBは保守的になりがちなんです。それはスポーツ界が縦社会で、上の人に意見を言わない風習があるせいでもあると思いますが、うちの会社自体、そもそも年功序列ではない。だからもっともっとアグレッシブに意見を出してほしいですね」
前沢氏の言葉からは事業側の期待の大きさがうかがえる。