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兄弟子・稀勢の里の勇姿に「次は自分」と誓った日から早5年… 全勝ターンの元大関・高安が“荒れる春場所”で狙う「悲願の恩返しV」
text by
荒井太郎Taro Arai
photograph byJMPA
posted2022/03/22 11:00
平成30年(2017年)初場所、兄弟子・稀勢の里の優勝パレードで旗手を務めた高安。ストレート給金の今場所は自身の初優勝の期待がかかる
「終盤は足が出ない相撲が多かった。完全なスタミナ不足です」
積み上げた10個の白星のうち、2分半超の相撲が2番もあるなど長い相撲が、15日間の長丁場を戦い抜く体力を奪っていた。
「昨年はよく長い相撲を取っていたが、体力という面では後半に響く。厳しく、速く攻めることを心掛けて稽古してきた」と今場所はここまで1分を超える相撲はなく、“省エネ”に徹している。
今年初場所は部屋の力士らが新型コロナに感染し、休場を余儀なくされた。2月には32歳となったベテランにとって、目標である大関復帰は時間との戦いも強いられるだけに、貴重な一場所を失った形だが「いい機会だと思って、しっかり体のケアと短所を鍛えて充実したここ1、2カ月でした」と前向きにとらえている。
「目の前の一番を気楽に」兄弟子への恩返しなるか
かつての兄弟子、稀勢の里も艱難辛苦を乗り越えて平成29年初場所、初賜盃に到達したが、大関時代の24年夏場所は11日目の時点で後続と2差をつけながら、終盤で大崩れして優勝を平幕の旭天鵬にさらわれた苦い経験がある。
奇しくも同じ道を辿る弟弟子は「いい勉強になりました。有利と思われても最後は何が起きるか分からない。相撲は本当に面白いですね」と今は昔を懐かしむように口元を緩めながら、振り返ることができるまでになった。
8戦勝ちっぱなしで勝ち越しを決めた日のインタビューでは、後半戦に向けて「気を引き締めて、目の前の一番を気楽にやっていきます」と語った。幾多の悔しい思いを募らせながら、心身の両面で課題を克服して臨む今場所は、みたびとなる悲願達成の絶好の機会だ。
優勝争いの経験も豊富な元大関にとって、“荒れる春場所”の主役と言われるのは、おそらく本意ではないだろう。遅ればせながら、かつての兄弟子に恩返しするときが、ようやく訪れようとしている。
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