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兄弟子・稀勢の里の勇姿に「次は自分」と誓った日から早5年… 全勝ターンの元大関・高安が“荒れる春場所”で狙う「悲願の恩返しV」
posted2022/03/22 11:00
text by
荒井太郎Taro Arai
photograph by
JMPA
3年ぶりに有観客の開催となった春場所は、カド番大関の正代、貴景勝が立ち上がりで連敗を喫して黒星を先行させ、一人横綱の照ノ富士も5日目までに金星を2つも配給するなど、序盤から“大荒れ”の様相を呈した。
注目の新大関御嶽海は5日目の霧馬山戦で苦杯を舐めたものの、落ち着いた取り口でここまで看板力士としての役割をしっかり果たしている。そんななか、唯一全勝で前半戦を折り返したのは、前頭7枚目の元大関高安だ。
無傷のストレートで給金を直したのは、関脇時代の平成29年春場所以来、自身5年ぶり。この場所は同じ田子ノ浦部屋の兄弟子、新横綱稀勢の里とともに初日から10連勝し、2人して優勝争いのトップに並んだ。高安は翌日から3連敗と失速したが12勝をマークし、大関取りの足場を固め、翌場所の大関取りにつなげた。稀勢の里は前場所に続き、連覇を達成。弟弟子は2場所続けて優勝パレードでは旗手を務め、「次は自分」と心の中で強く誓った。強い兄弟子との日々の稽古を通じ、実力差を徐々にではあるが埋めてきたという実感から出てきた言葉であり、自分を引き上げてくれた恩を結果で報いたいという意味も込められていた。
優勝のチャンスを逃し続けてきた高安
最初の大きなチャンスは大関時代の翌年九州場所で訪れた。白鵬、鶴竜、稀勢の里の3横綱と大関豪栄道が休場。大関栃ノ心も勝ち越すのがやっとという状況で、上位陣で唯一、気を吐いたのが高安だった。14日目には、優勝争いのトップを走る小結貴景勝を直接対決で引きずり下ろし、2人はともに2敗で並び、千秋楽を迎えた。先に土俵に上がった貴景勝は錦木に勝って13勝。高安も勝てば両者による優勝決定戦だったが、すでに負け越しが決まっていた関脇御嶽海の掬い投げに屈し、惜しくも初賜盃を逃した。
「体が動かなかった。相撲勘だけで勝っていったみたいなもの。あれで勝てるわけがない」というのが場所後、本人が語った敗因だった。
その後はケガも重なって大関の座を明け渡したが、2度目のチャンスは小結の地位で迎えた昨年春場所に巡って来た。10日目を終わって1敗で単独トップに立ち、後続に2差をつけて終盤戦を迎えた。翌日は大関正代に敗れたものの役力士との対戦は全て終え、残り4日間は格下の平幕が相手。状況から見て初優勝はほぼ間違いなしという状況だったが、13日目から3連敗と大失速。つかみかけた賜盃は手元からすり抜けていった。