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MLBファンの怒り「腹立たしい」「彼らは自分たちのことばかり…」決まらない開幕日程、春季トレーニングの地で米在住記者が見た現実
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byGetty Images
posted2022/03/06 11:00
選手会執行役員を務めるマックス・シャーザー。機構側及び選手会側からも、開幕を待ちわびるファンへの謝罪の言葉はない
開幕延期を聞いたファンの悲痛な声
筆者は公式戦中止が発表となった3月1日、アリゾナ州フェニックス周辺で取材を行った。その際には何人ものファンの声を直接聞いた。当然ながら、開幕延期を喜んだファンはひとりもいない。約1800キロ離れたオレゴン州から来たという男性ファンは言った。
「スプリングトレーニングのチケットを手に入れたので、野球のないオレゴン州からはるばる飛んできたんだ。野球を見に行くことは僕の生涯の夢だった。それがようやくできると思ったら彼らに“カーブボール”を投げられたよ。キャンセルすれば失うお金もある。だから来た。ロックアウトで一番苦しんでいるのは私たちファンじゃないのかな。そういう声が彼らに届くことを期待しているよ」
「彼らは自分たちのことばかり考えている。腹立たしい」
約2800キロ離れたインディアナ州から来た女性ファンの声はもっと辛辣で手厳しかった。
「機構や選手たちが、例えばスプリングトレーニングの球場や売店で働く小さな人々のことを考えていないことが、非常に残念だし、腹立たしい。遠路はるばるスプリングトレーニングの地に足を運ぶのだって理由があることをわかって欲しい。それは1年に1度しか、休暇がないからなんです。彼らは自分たちが稼ぐお金のことばかり考えているけど、彼らが愛するゲームをプレーできるように、彼らが贅沢なライフスタイルを送れるように、そのお金を支払っているのは、彼らのプレーを見たいと思っている私たちファンなんです。そのことを忘れないでほしい。彼らは自分たちのことばかりを考えている。本当に腹立たしく、残念だ」
まさにごもっともな意見。
こんな声が聞こえたのか、選手会は動いた。
3月4日、選手会はアリゾナやフロリダでロックアウトで影響を受けたスタジアム労働者などに対し、100万ドル(約1億1500万円)の基金を立ち上げると声明文で発表した。評価のできる動きとは感じる。
MLBもオーナー側も企業として、自分たちの未来を守ることは当然の姿勢だ。選手会だって、未来の選手たちのために権利を獲得しなければならないことはわかる。だからこそ、野球を支えているファンの存在を忘れてはならない。
コロナ禍で無観客で行われた20年シーズンを経て、昨春のオープン戦からスタジアムにはお客さんが戻るようになった。その拍手、歓声を聞いた際に選手たちが口を揃えて言ったことを覚えている。
「お客さんの声援がどれだけ嬉しく、力を与えてもらっているか、それをあらためて感じました」
今回の交渉において、残念ながら、その気持ちはどこかに忘れ去られてしまったようだ。
泥沼の背景には、リーダーシップのかけらも見られないマンフレッド氏の情けない姿も見え隠れする。彼を選んだのはオーナー陣であることを考えれば、オーナーたちの思惑通りということにもなる。選手会が腹を立てる理由もわからないではない。