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ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
「私を求めるクラブはないのか」80歳のオシムが意気軒昂に語る指導者への情熱「監督が走る必要はない」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byAFLO
posted2022/03/04 11:01
2019年にシュトゥルム・グラーツの110周年記念行事に参加したオシム。この時78歳。老いてなお眼光鋭い
――私はまあまあですがあなたはどうですか?
「こちらはテレビを見ている。ウクライナとロシアのニュースだ。解説者の説明でいろいろなことがわかったが……。注目しているのは、どうしてこの戦争が起こったかだ。どういう経緯で今の状況にまで至ったのか。ロシアはどうして世界の言葉に耳を傾けないのか。ヨーロッパの国々の呼びかけに応じようとしないのか……。日本もアメリカもインドも、ロシアに圧力をかけている。あらゆる政治家にとって、この戦争は最大の試金石になるだろう。問題がないところにも、彼らは自身の手で問題を作り出すから」
――旧ソビエトとロシアでは政治体制も違うし今とは国際情勢も異なりますが、1956年のブダペスト(ハンガリー動乱)や68年のプラハ(プラハの春。いずれも自由化を求める政府と国民の動きに対して、ソビエトを中心としたワルシャワ条約機構軍が軍事介入し武力で制圧した。ちなみにハンガリー動乱では、当時世界サッカー史上最強といわれたハンガリー代表も実質的に解体し、フェレンツ・プスカシュをはじめとする主力の多くはスペインやイタリアに亡命した)と比べて……。
「いずれにせよ少しでも知性ある人は、地理をよく理解しているし現地の状況をよくわかっている。ウクライナでどんな生活が営まれ、今は失われているかも」
――覇権主義であり帝国主義の新たな形態と言えますか?
「私にはよくわからない。私が君に言えるのは……、自分がどうすればいいのかわからないということだ。わかるのはいつか死ぬことぐらいで、仕事に復帰できる手応えは感じていても、今は誰のサポートも得られずに……(アシマ夫人の言葉で中断)。
別の電話がかかってきた。多くの人が私のコメントを求めている。モンビュウ。
私はもう年老いて走ることはできないと人は言う。だが私は、監督が走る必要はないと答えている(笑)」
――たしかに監督にとって、走るのは絶対必要条件ではないです。
「私は特に問題ない。どこかに私を求めるクラブはないのか。ベンチでは若い選手たちのコントロールが必要だ。重要なのはトレーニングであり、どんなアイディアを抱いて実現しようとしているかだ。
サリュ。妻と代わる。彼女が何かいいたいことがあるようだ(笑)」
――そうですか。メルシー、イヴァン。
アシマ夫人からの苦情
(アシマ夫人と代わる)
「あまり長く話さないようにと言っているのに、あなたとの電話はいつも長くなります(笑)。実はイヴァンの食事を用意していたところでした。起きるのが遅かったので、ちょうど食事の時間だったのです。準備が終わったまさにそのときにあなたから電話があって、すべてが温かかったのに今はもう冷めてしまいました」
――それは申し訳ありませんでした(笑)。
「だからイヴァンにも話を適当に切りあげるように言ったのに(笑)。まず食事をしないと。冷めると美味しくないし、最近は食が細くなりがちなので、しっかり食べてもらわないと。ほとんどすべての用意ができていたのに冷めてしまい、そうなると今度は食べたくないと言い出します。そんな感じなんです」
――次からは気をつけます(笑)。今日はどうもありがとうございました。
「日本の皆さんによろしく」
――ごきげんよう。
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