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「98年のチームはすでにピークを過ぎて高齢化し…」トルシエが“日本代表の世代交代”を決断した「中村俊輔のループシュート」
posted2022/03/29 06:00
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
AFLO
日本サッカーを発展させるという大きな使命を受けて代表を率いた歴代の外国人監督が、この国で戦う自信を得た1ゴールについて語った。
フィリップ・トルシエにとって、日本サッカーと自らの運命を変えたゴールとして最も印象深く記憶に残っているのは、1998年11月23日、国立競技場でおこなわれた日本U-21代表対アルゼンチンU-21代表戦における中村俊輔のゴールだという。
五輪代表監督を兼任する日本代表監督に就任して2試合目。スタンドを埋め尽くした熱狂的な観衆に後押しされた若き戦士たちは、ワールドユース(現U-20ワールドカップ)優勝チームに対し一歩も退かない戦いを挑んだ。
前半42分、稲本潤一と福田健二のワンツーがこぼれたところを素早くボールに詰めた中村俊輔が、相手DFとGKの位置を冷静に見ながら技ありのループシュートを決めた。
「技術的に素晴らしかった。優れたテクニックと繊細さ、知性が生み出したゴールだ」とトルシエが当時を振り返った。
サッカーを評価する3つの基準がある
「サッカーを評価する3つの基準がある。ひとつは状況の把握で、自分がどこにいて味方や相手がどこにいるのかを理解する。次が状況に合った適切な判断だ。彼は稲本のパスをよく見ていた。そこでボールを保持するのかドリブルをするのか、どのタイミングでシュートを打つかを正しく判断した。最後に最も重要な基準として、効果的な動きを実現できるかどうかだが、その点でも中村の仕上げは完璧だった」
日本はユース世界王者を1対0と下した。だが、勝利以上に重要であったのは、中村のゴールがトルシエに、4年後に開催されるワールドカップに向けて、歩むべき方向を確信させたことだった。