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「ソチでは一生思い出したくないほどのことが起きて…」浅田真央が明かす、その直後に『ノクターン』で世界新記録を出せた理由
text by
浅田真央Mao Asada
photograph byMiki Fukano
posted2022/02/16 11:02
バンクーバー、ソチの五輪2大会に出場した浅田真央さん
本当に全身全霊、死ぬ気でやっていました
'08-'09年は、タチアナ・タラソワに『仮面舞踏会』(ハチャトゥリアン)を振り付けてもらい、グランプリファイナルではトリプルアクセルを2回成功させて優勝しました。この曲は、これまで多く滑ってきたピアノ曲とは違い、管弦楽で重厚な音色です。私もそれに合わせて重圧を感じるようになりましたね。自分の表情がどんどんきつくなっていくのが分かりました。
この曲は戯曲にもなっていて、ロシアの貴族社会で起こる悲劇ですが、最後に夫人が死ぬシーンがあって、滑り終わったらそこで倒れてもいい、それほど死ぬ気でやりなさいと言われていました。
私はそのストーリーよりも、ワルツのワン、ツー、スリーのリズムに乗ることを心掛けていました。後半のステップシークエンスは本当に全身全霊、死ぬ気でやっていましたよ。実際、国別対抗戦で滑った後、倒れましたから(笑)。
なぜ19歳の私にこんなに重たいドラマチックな曲を?
翌年のバンクーバーオリンピックにはこの『仮面舞踏会』をショートに、フリーは前奏曲『鐘』(ラフマニノフ)を選びました。オリンピックシーズンの曲選びは特に悩みます。自分にベストのものを選びたいと思うからです。
最初、タチアナはなぜ19歳の私にこんなに重たいドラマチックな曲を選んだんだろうと思いましたが、オリンピックが終わったときに、その理由が分かりました。オリンピックで戦うには、私にはこれくらい力強い曲が必要でした。それでなければ負けていました。
『鐘』も『仮面舞踏会』も、ソチの『ピアノ協奏曲第2番』(ラフマニノフ)も私を助けてくれました。重圧を感じているときに、あのドーンという音や激しい曲調は、気持ちを前に押し出してくれるんです。目に見えない力が音楽にはあると思います。
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