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「箱根はウチに向いている」青学大の“超・高速駅伝”は史上最強なのか? 原監督采配ズバリの区間配置の真相《独走で総合優勝》
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAJPS/PICSPORT
posted2022/01/03 20:25
青学大9区・中村からトップでタスキを受けた10区・中倉。圧勝を象徴する“区間新リレー”だった
オーダーを決めるにあたっては、4つの要素を組み合わせて考えるという。
・能力の絶対値
・練習の消化率
・区間適性
・直前のコンディショニング
今回、7区に岸本、8区に佐藤を起用した理由を、原監督は会見で明かした。
「ふたりは夏合宿以降の練習の消化率で100パーセントに到達していないことと、岸本は全日本の後に3週間、ノーラン(走らない)期間がありました。佐藤は10日ほど前に38度の発熱があり、直前のコンディショニングで不安がありました。そこで、1日でも回復期間を延ばした方がいいだろうということで、復路に起用したわけです。ふたりは必ずしも万全というわけではなかったのですが、彼らは能力の絶対値が高いので、起用すること自体に迷いはなかったですね」
能力の絶対値とは、すなわち「才能」である。本人のポテンシャルや、ビッグレースで結果を残せるかどうか、といった能力までもが問われる。直前のコンディショニングに不安があっても、原監督のふたりに対する信頼が揺らぐことはまったくなかった。
1年・太田&若林の起用は「練習の消化率」
それに対し、往路については練習の消化率を重視したオーダーを組んだ。
入学以来、ポイント練習をほぼ100パーセントこなしている3年生の近藤幸太郎を筆頭に、1年生でありながら3区を走った太田蒼生、5区担当の若林宏樹は、学年の要素はまったく関係なく、原監督は消化率という「数字」を重視して結果を引き寄せた。
実は、こうした札の切り方は難しい。
基本、往路はスピードの絶対値が求められるので、才能豊かな選手が起用される傾向が強い。本来の調子ではなくとも、各大学の監督たちはエース級の「能力」に期待して往路に起用する。
ところが、今回の原監督は違った。
岸本、佐藤の能力絶対値が生きるのは復路と踏み、練習の消化率こそが往路で結果を出すと見極めて、3区に太田、5区に若林のふたりの1年生を起用し、これが的中した。