沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
《有馬記念》エフフォーリアと横山武史は“とにかく強かった”…苦境の若武者を救った一言「武史が一番上手いから、信じて乗ってこい」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byKiichi Matsumoto
posted2021/12/27 12:10
今年の有馬記念を3歳にして制したエフフォーリアと横山武史
ラスト300m付近でタイトルホルダーが先頭に立ち、その外からディープボンドも末脚を伸ばす。
さらに外を走るエフフォーリアは、これら2頭をラスト200m付近で瞬時に抜き去り、先頭に躍り出た。横山は言う。
「道中はすごくいいリズムで走り、直線に向くことができました。内側からディープボンドも来ていましたし、ガムシャラに追って、何とか勝ってくれという思いでした。それに応えてくれた馬に感謝しています。いい思いも悔しい思いも経験させてくれた特別な馬です」
ディープボンドがしぶとく差し返してきたが、右手前に戻したエフフォーリアが3/4馬身差で振り切り、先頭でゴールを駆け抜けた。
勝ちタイムは2分32秒0。
1完歩ごとに差をひろげながらのフィニッシュだったので、3/4馬身差という着差以上に勢いの差を感じさせる完勝であった。圧勝と言ってもいい。とにかく、強かった。
横山を救った言葉「武史が一番上手いから、信じて乗ってこい」
だが、皐月賞や天皇賞・秋を勝ったときと違い、ゴール後、横山はガッツポーズをせず、エフフォーリアの首筋を軽く叩いて讃えただけだった。スタンド前に戻ってくると、馬上でヘルメットを取り、深々と頭を下げた。
勝利騎手インタビューでも表情は硬いままだった。
それには理由があった。前日、中山芝1600mで行われた新馬戦で、エフフォーリアの半弟ヴァンガーズハートに騎乗した横山は、ゴール前で数完歩追う動作を緩めた直後、内から強襲してきたルージュエヴァイユに鼻差かわされ、2着に敗れていたのだ。エフフォーリアと同じキャロットファームが所有し、鹿戸厩舎に所属する馬だ。彼はゴール前で左後ろ(外)を2度ほど振り返っていたのだが、勝ち馬が内に進路を切り替えていたことに気づかなかったようだ。この騎乗が、騎手としての注意義務を怠ったものとして、来年1月15日から16日までの2日間の騎乗停止処分を受けた。
馬やホースマンにとって、どのレースもの大切だが、なかでも新馬戦は、生涯に一度しかない舞台であり、結果がその後のローテーションにも大きく影響する。
それをわかっているだけに、横山は、周囲から見ると落ち込みすぎではないかと心配になるほど反省していた。
そんな横山に、有馬記念のパドックで、鹿戸調教師はこう声をかけた。
「武史が一番上手いから、信じて乗ってこい」
その言葉に、横山は救われたという。