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指導の原点は“ピクシーを叱ったベンゲル” 元名古屋GK伊藤裕二56歳が率いる中部大第一の挑戦「僕らが一番弱いんじゃないかな」
text by
イワモトアキトAkito Iwamoto
photograph byAkito Iwamoto
posted2021/12/23 11:04
2014年に中部大第一高の監督に就任した伊藤裕二。記念すべき100回大会で初の全国選手権へ導いた
その後、2013年のストイコビッチ監督退任とともにチームを離れた。その頃、サッカー部の強化を目指していた中部大第一高校に誘われ監督に就任することが決まった。学校では“事務職員”の肩書、慣れない作業は他の職員たちが優しくサポートし、伊藤が指導に集中できる環境づくりに尽力してくれた。
中部大第一高は県内外から有力選手を呼び寄せることはしない。ここでサッカーをしたいと入学した選手をどこまで伸ばせるか、入ってきた子どもたちをどれだけ伸ばせるか。試行錯誤しながらも選手たちに寄り添うように向き合ってきた。
県大会で全試合無失点に抑えたGK下村駿季(2年)は「なんでも話せる、なんでも聞いてくれる。優しい親父みたいな存在ですね」と伊藤の存在を心の柱にする。笑顔が絶えないチームの中心にはいつも伊藤の姿がある。
「きっかけは本当にちょっとしたことなんです。でも気持ちの部分ってすごく大事だなって……」と伊藤は県大会初戦で選手たちと交わした約束を思い返す。
大会を前に3年生のボランチ苅谷碧斗が膝に大怪我を負った。到底試合に出られる状態ではない。それでも3年間ともに汗を流した苅谷をピッチに立たせてあげたかった。
試合前、伊藤は選手登録に苅谷を入れ、選手たちに苅谷を試合に送り出すための条件を課した。
後半ロスタイムの時点で最低でも3点リードを奪え――。
選手たちの心に火がともった。試合は5-0で後半ロスタイムを迎えた。「ピッチに立っているだけでいい」と苅谷を送り出す伊藤、偶然にもそんな苅谷にボールがまわり、ファーストタッチがアシストとなり6点目が生まれたのだ。
小さな火はやがて大きな炎となり、チームの快進撃を生み出した。苅谷は今も部員たちのサポート役としてチームに寄り添っている。