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《祝27歳》応援団長・松岡修造が語る“羽生結弦の10年”「誰よりも苦しんでいるはず」「勝負師気質は上杉謙信とも重なる」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2021/12/07 06:00
2018年2月、平昌五輪の日本選手団帰国報告会で羽生にインタビュー。テレビ番組の取材をはじめ様々な機会で、羽生の想いを聞き続けてきた
“結弦チャレンジ”というマインド
羽生さんはある意味、誰よりも苦しんでいるはずです。なぜならそこに“結弦チャレンジ”というマインドがあるからです。挑戦するということはリスクもあるし、逆境も壁もあります。でも羽生さんはそれが好きなんです。それが無いと生きていけない人なのです。
究極を求めている人ほど苦しみますし、孤独になります。でも、孤独の中で得る力が大きければ大きいほど、最終的にリンクで見る者に与えるパワーは増すのです。
羽生さんにとって「逆境」と「チャレンジ」が同義語であるなら、逆境は永遠に続くと思います。チャレンジのない羽生さんはたぶん生きていけないんだと思うんです。それはフィギュアスケートを終えたとしてもです。
『天と地と』で見せた羽生結弦、“10年間の進化”
僕は16歳から26歳までの羽生さんを見てきました。羽生さんと僕との10年間は、東日本大震災から始まり、現在はコロナ禍にありますが、発信するメッセージの内容や発信の仕方で進化を感じるところがあります。その象徴が『天と地と』で伝えた“義”です。羽生さんは感受性が強く、苦しんでいる人の想いも自分の中に入れていくタイプの人ですから、震災の時もコロナ禍の今も、自分はリンクで滑っていていいのかと自問自答したと思います。そのうえで今の自分を受け入れたところに今回の全日本があったのでした。
この10年間、羽生さんが戦い続けてこられた強さの理由は、フィギュアスケートをスポーツとして捉えているからだと思います。スポーツだからやはり勝たなければ意味がないという考え。この根っからの勝負師気質は上杉謙信とも重なります。そして今回の全日本では、『天と地と』で“義”と通じ合うことができた。これは彼にとっての10年間の進化であり、新しい羽根を付けたことで見えた新しい世界だと思います。