レスラーだったら生傷はつきもの。それは女子とて例外ではない。ある日顔にアザを作った川井が「こんな傷ができてしまった」と愚痴ったら、金城さんは即座に返した。

「いいじゃん。頑張っている証拠じゃん」

　ハードな練習が重なり、川井が「疲れた」と漏らすと、金城さんは「頑張っているから疲れるんだよ」と労ってくれたという。

「腕が太いとか、レスリングという競技をやっているうえで女性だったらイヤなことも、彼は全然ネガティブにとらえない人だった。そういうところが、私には良かったのかなと思います」

子供たちを指導していて気づいたこと

　現在、金城さんは福井県の甲子園出場校としても知られる敦賀気比高校の教員。同校のレスリング部コーチを務めているので、川井も入籍後は敦賀市に住む。

「オリンピック関連の表彰式に出席する以外はずっと福井にいます。実家の石川県も車で1時間半くらいの距離です」

　敦賀ではキッズレスリングの指導にも携わる。「ちびっこの指導はすごく難しい。（登坂）絵莉さんや私の親はともに指導者。絵莉さんとは『途中で私たちを辞めさせることなくレスリングを続けさせた親はすごいよね』という話をしています」

　キッズを指導するようになると、初めて親目線という見方ができるようになった。

「必ず強くするとはまだ自信を持って言えないけど、そうなってくれたらうれしい」

　川井は今後も現役を続行する意向。女子レスリング界に新たな道を開拓する一方で、私生活での優先事項は夫のサポートだ。

「愛知県で自炊しているときには、今日は何を作ろうかなんて考えることもなかった。でも、いまは夫が帰宅する時間に合わせ、そういうことを考えています。毎日ネットで作り方を調べて、母に『毎日どうやって献立を考えているの？』と相談しています。そして家事の合間にトレーニングや自分のやりたいことをやるようにしています」

　リオデジャネイロと東京を連覇した川井のネクストステージ。両五輪の金メダリスト世代は、レスリング界の価値観をどう変えていくのか。