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<引退>「涙は僕のキャラじゃない」MotoGPを明るく照らし続けたスーパースター、バレンティーノ・ロッシのベストレースとは
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2021/11/19 17:05
最後まで笑顔でサーキットを去った42歳のロッシ。強いだけでなく、ヒロイックなイメージだったグランプリの間口を広げた、レース界最大の功労者でもある
ロッシは96年にWGPデビューしてから、アプリリアで125ccと250ccのチャンピオンを獲得。その後、最高峰クラスの500ccとMotoGPクラスでは、ホンダで3度、ヤマハで4度、通算9回のタイトルを獲得した。通算115勝は歴代2位。この26年間、ロッシは、テレビにいつも笑顔を振りまいた。強くて速くて愛嬌のある“ロッシスマイル”にだれもが虜になった。
最終戦バレンシアを前に、ロッシは「たぶん涙は見せない、それは僕のキャラじゃない」と語った。実際、最終レースを終えたロッシの目に涙はなく、大勢の関係者、ライダー仲間、ファンの声援に最後まで笑顔で応えた。
天才ライダーを支えた情熱
いま、ヘレスにいて、ロッシが引退して初めてのテストを取材している。これまではテストであれレースであれ、一日の始まりはまずロッシのピットに行ってカメラで彼の表情を押さえ、それからコースに出て走りを撮るというのが僕のルーティンだった。誰よりもロッシの写真は必要とされていて、それこそがスーパースターの証だった。
ロッシは史上最多の432戦に出場した。怪我の多い2輪のレースで26年間グランプリに参戦し、最高峰クラスで22シーズンを戦った。ここまで長く続けられた秘訣をロッシは「情熱」だと語る。その情熱は天賦の才能を活かし、刻々と変化するマシンと時代に合った走りを叶えてきた。これまで残してきた数々の記録はもちろんのこと、人気においてもバレンティーノ・ロッシを超えるライダーはもう出てこないだろう。
2021年11月14日。ロッシのラストランは10位だったが、彼のレースへの情熱をもっとも感じさせてくれる走りだった。そして、「引退おめでとう」という言葉がこれほど似合うライダーもいないような気がした。
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