箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
1ブランドのシェア率9割の異常事態も…学生ランナー界の“厚底シューズ大戦争”はいまどうなっているのか?
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph byNanae Suzuki
posted2021/10/22 11:02
10月10日に開催された出雲駅伝。120人の出場で102人もの選手が選んだのは“厚底シューズ界の王者”だった
ナイキと契約しているのは駒大、東洋大、東海大、中大の4校。残りの大学は他ブランドを着用しており、シューズについても契約メーカーからプッシュされることが多く、無償で提供されることもある。そのなかでひとつのブランドが9割を超えるのはちょっと考えられない。アディダスとユニフォーム契約を結ぶ青学大ですら同ブランドのシューズを履いていたのは1人だけで、他9人はナイキを着用していた。それだけ多くの選手がナイキの“魔法”を信じていたことになる。
なおナイキの厚底レーシングシューズは2タイプある。反発力の高いカーボンファイバープレートを航空宇宙産業で使う特殊素材フォームで挟んだナイキ厚底シューズの3代目に当たる『ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%』(以下、ヴェイパーフライ)と、同シューズがベースで前足部にエアを搭載した『エア ズーム アルファフライ ネクスト%』(以下、アルファフライ)だ。
前回の箱根駅伝でいうと、区間賞の2、5、8、10区がヴェイパーフライで、1、3、4、6、9区がアルファフライ。総合優勝を果たした駒大の選手は5区と7~10区がヴェイパーフライ、1~4区と6区がアルファフライを履いていた。ナイキ派のなかでも人気は二分している。ヴェイパーフライはどちらかというと万人受けするモデル。アルファフライは履く人を選ぶ一方で、反発力はさらに高くなる印象だ。
今年“ナイキの右肩上がり”が突然ストップ
ただ今回の出雲駅伝でナイキのシェア率は箱根駅伝の95.7%から85.0%となった。独走状態は変わらないが、右肩上がりはストップしたことになる。この10カ月で何があったのか。
近年は他社もプレート(カーボンファイバーなど)を搭載した厚底モデルを続々と発売。シューズの“性能”という部分では、ナイキとの明確な差はなくなりつつある。さらに他社はプロモーション活動にも力を注いでいるのだ。その成果が数字にも表れている。
出雲駅伝は6区間中5区間でナイキが区間賞を獲得した。残り1区間は最終6区のイェゴン・ヴィンセント(東京国際大)でアディダスの厚底モデルを履いていた。ヴィンセントは箱根駅伝2区と3区の区間記録保持者。いずれもナイキの厚底がもたらしたものだが、今回はアディダスを選んでいるのだ。
国内トップ選手でいうと、設楽悠太(Honda)と新谷仁美(積水化学)もナイキからアディダスに履き替えている。またナイキ厚底シューズの申し子ともいえる大迫傑が現役を引退。“広告塔”の顔ぶれが変わったことが学生ランナーたちの支持率に影響するかもしれない。
箱根強豪校学生ランナーにも変化が……
ニューバランスは正月の箱根駅伝で7区佐伯涼(東京国際大)が『FuelCell 5280』というモデルを履いて区間賞(他9人はナイキ)を獲得。今季から順大とユニフォーム契約を結ぶなど、箱根駅伝強豪校に食い込んできている。