セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER

記者との舌戦でファンの心を掴んだ名物会長 復活の道を歩むフィオレンティーナに男気と蛮勇の頑固親父あり 

text by

弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

PROFILE

photograph byGetty Images

posted2021/10/18 17:00

記者との舌戦でファンの心を掴んだ名物会長 復活の道を歩むフィオレンティーナに男気と蛮勇の頑固親父あり<Number Web> photograph by Getty Images

今季開幕から好調を維持するフィオレンティーナ。その躍進の裏には名物会長の存在がある

 移籍金額の値付けは9000万ユーロと強気で、地元紙『ナツィオーネ』の報道によれば、ブラホビッチの代理人はすでに、マンチェスター・シティから年俸600万ユーロの複数年契約(+代理人手数料1000万ユーロ)の密約を手にしているという。

 2002年のセリエC2時代のエースFWリガノーや80年代のレジェンドGKガッリらクラブOBは、ブラホビッチを「身勝手で強欲すぎる」「育ててもらったクラブへの恩義を忘れたか」と批判し、辛辣な意見を並べた。

 当然、契約更改を望んでいた地元ファンの失望も大きく「残りシーズンはブラホビッチをベンチ外にするべき」という過激な意見も噴出するほど。一方で、少々強硬にも見えるコンミッソ会長を支える声は一層強まった。

12歳で渡米し、一代で財を築き上げたケーブルTV王

 ファンのコンミッソ支持を決定づける“事件”があったのは、昨季終了間際の5月中旬のことだ。2度の監督交代を経て苦しんだシーズンの大詰め、セリエA残留の確定を機に会見に臨んだコンミッソ会長は、ずらりと並んだ地元記者たちと2時間の激論を交わした。チーム&クラブ批判をさんざん繰り返してきた彼らにやり返すためだ。

「あんたらは1年間よくもイアキーニ監督とわしを(批判で)なぶり殺しにしてくれたな。偉そうぶっているが、あんた方は“ジャーナリスト・カップ”の優勝者様なのか?」

 記者代表が反論しようとすると、「いや、あんたはこれまでシーズンの間ずっと非難し続けてきて、わしはずっと黙って耐えてきた、今日はわしが話す番だ、オーケー?」と有無を言わさず続けた。

「フィオレンティーナを買ったとき、正直、こんなに財布を開くとは思っていなかった。クラブ買収に1億7000万ユーロ使った後、この2年の赤字補填に8200万ユーロ、練習場整備や何やで総額3億3000万ユーロを払ってきた。よろしい、わしを批判したいのなら、あんたらに10日やろう。その間にフィオレンティーナをよりよく運営できるフィレンツェのお金持ちたちを連れてきてくれ。そして、実際にやってみせてくれ」

 会長が、つっかえつっかえのイタリア語で切ったタンカには迫力があった。文字だけを追えば横暴に見えるが、それは真実の訴えだった。記者たちは押し黙った。

 2年前にビオラの新会長となったコンミッソは、12歳で渡米し、一代で財を築き上げたケーブルTV王だ。アメリカンドリームの体現者だけに開拓者精神とバイタリティに溢れ、アクが強い。

 先代のパトロンだったデッラバッレ兄弟は地元の名士であり、上流階級然とした言動を崩さなかった。翻ってコンミッソ会長は、名門コロンビア大学出のスーパービジネスマンとはいえ、そのイタリア語は流暢とは言い難く、セレブ的なボキャブラリーに乏しい。

 だから、辛辣な地元メディアにはコンミッソ会長を“がさつな田舎親父”と侮る向きがある。

【次ページ】 会見の動画を見たファンたちは次々に会長を支持

BACK 1 2 3 NEXT
フィオレンティーナ
ドゥシャン・ブラホビッチ
ロッコ・コンミッソ

海外サッカーの前後の記事

ページトップ