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記者との舌戦でファンの心を掴んだ名物会長 復活の道を歩むフィオレンティーナに男気と蛮勇の頑固親父あり
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2021/10/18 17:00
今季開幕から好調を維持するフィオレンティーナ。その躍進の裏には名物会長の存在がある
会見の動画を見たファンたちは次々に会長を支持
まさかの批判返しを受けた記者たちは、その場では沈黙したものの翌日の紙面で反撃に出た。コンミッソを「何と不調法な会長か」「まるで滑稽なB級コメディ映画のギャングスターのようだ」と嘲り、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙のベテラン記者に至っては「吠えたところでここでは何も変わりはしないのだから、イタリアの流儀に従いなさい。わざわざアメリカからやってきてご苦労なことだ」と、これまでの会長とクラブの努力を嘲笑うかのような論調で冷笑した。
だが、これが裏目にでた。
フィレンツェは“イタリアで最も不平不満が多い街”と言われるほどニヒリズムに満ち溢れる一方、前時代的な男臭さを隠している。街に中世から伝わる格闘球技“カルチョ・ストーリコ”の猛々しさは言うに及ばず、蛮勇を尊ぶ気風がある。
会見の動画を見たファンたちは、次々に会長を支持した。
コロナ禍による経済困窮を脱しようと日々もがいている市井の目には、批判するだけで自らの手を汚そうとしないマスコミや、浮世離れした報酬を望むブラホビッチは空々しく映った。不器用でも身銭を切って前に進もうとする会長の説得力には敵わない。
仕事を増やしたくないお役所の抵抗にも抗いながら、会長とクラブは今年2月、総面積25ヘクタールを誇る新練習場「ビオラ・パーク」建設着工にこぎつけた。8500万ユーロをつぎ込む最新設備のトレーニングセンターは、来季半ばには稼働を始める。
目標は10位以内でのフィニッシュ
現場を預かるイタリアーノ監督は、会長がエース放出を明言したことで、早急にブラホビッチ頼みから脱却を図る必要が出てきた。
今のビオラは下位にはきっちり勝つが、上位陣には90分もたずに崩されて力負けする。第7節のナポリ戦でもクアルタのゴールで先制しながら1-2の逆転負けを喫した。
1年目の指揮官イタリアーノは「このチームにはメンタル面で大きな伸びしろがある。上を目指そうと思えば、向上しなければならない部分だ」と説く。現在のところの目標は10位以内でのフィニッシュだ。
『VIVA! CALCIO』の劇中には、契約延長を巡る経営陣との生々しい描写はほとんど出てこない。ただし、ゴシップ記者の陰謀によりインテル移籍の噂が立ったシーナが、ファンとチームメイトから信頼を失うエピソードがある。
「俺はフィレンツェに残る」と強調するが、信じてもらえない。シーナは魂込めたプレーとゴールで、ルイ・コスタら仲間たちの信頼を取り戻す。
男気と蛮勇の塊――シーナのような選手を、僕はついついフィオレンティーナのなかに探してしまう。もしシーナが現実にいれば、イタリアーノ監督ともコンミッソ会長とも、意気投合したのではないか。そんな気がする。