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記者との舌戦でファンの心を掴んだ名物会長 復活の道を歩むフィオレンティーナに男気と蛮勇の頑固親父あり
posted2021/10/18 17:00
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Getty Images
昔、フィレンツェを舞台にした『VIVA! CALCIO』(ビバカルチョ)という痛快無比のサッカー漫画があった。
世界最強と謳われた90年代のセリエAで、主人公の日本人MF椎名燿(通称シーナ)が古豪フィオレンティーナをスクデットへと導くという成功譚。月刊少年マガジンの連載が始まったのは、93年2月号だ。
当時、実名かつリアルタッチで描かれたスタープレーヤーや新聞に一喜一憂する現地のサポーターなど、欧州サッカーの日常を切り取った表現は斬新そのものだった。シーナとともに躍動するFWバティストゥータやMFルイ・コスタに憧れ、ビオラ(※紫色=フィオレンティーナの愛称)のファンになったという人は少なくないのではないか。
現在5位と健闘もエースとの契約更改が決裂
そんなフィクションの世界に負けまいと、今季のフィオレンティーナは開幕から7試合を終えて5位と健闘中だ。
しかし先月下旬、クラブは抜き差しならない事態に追い込まれた。
エースFWブラホビッチの契約更改が決裂したのだ。
昨季、21歳にして外国籍選手ではクラブ史上4人目の年間20得点超えを達成したブラホビッチは、大砲バティストゥータの再来として一躍街のアイドルになった。
“若い、デカい、上手い”の三拍子揃ったブラホビッチは当然、今夏の移籍市場でビッグクラブの標的とされ、A・マドリーからは5500万ユーロのオファーも届いた。
だが、フィオレンティーナは23年夏で切れるブラホビッチとの現行契約の更改を望み、これを拒否。本人も8月末の時点で「自分の意志でフィレンツェに残ると決めた。将来については監督や、より経験ある人たちに意見を聞くよ」と更改を匂わす発言をしていた。
ところが、代理人とクラブが数カ月間におよぶ腹の探り合いを重ねたすえ、10月初旬に行われた本交渉は決裂。怒り心頭のコンミッソ会長は「我々は、年俸400万ユーロの5年契約という破格の金額を提示した。それなのに、バティストゥータやルイ・コスタですら受け取ったことのないクラブ史上最高年俸でもご不満らしい」と声明を発表し、チームの絶対エース売却へゴーサインを出したのだ。
ブラホビッチは今冬にマンC行きか
9月上旬の第3節アタランタ戦で人種差別的な野次を受けたブラホビッチの心中を慮り、彼をかばった会長としては苦渋の選択だったはずだが、組織のトップとしては迅速な経営判断を下さねばならない。
長期契約を結び直したうえで、クラブ収支に大きな影響を与える超高額の移籍金獲得を目論んでいたビオラ側としては、更改破談は誤算だろうが、ブラホビッチは早ければ今冬の市場で動く可能性がある。