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「ちゃんと答えます」古賀紗理那が明かした東京五輪とケガのこと、「私、何のために復帰するの?」から再びスイッチが入った理由
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byAFLO SPORT
posted2021/10/14 06:00
東京五輪を終えた後、バレーボールと離れた時間を過ごしたという古賀紗理那。頭の中を整理しながらリーグ戦へと気持ちを切り替えていた
感情が溢れたのは、石井優希が呼びかけ、最後に全員で写真撮影をした時だった。
「本当はケニア戦で勝った後に撮る予定だったけれど、私がケガをしていなかったからその時は撮れなくて、全員で撮った写真が1枚もなかったんです。だから最後に『(荒木)絵里香さんを真ん中にして笑顔で撮ろうよ』って。優希さんが一番泣いているのに、笑顔でって言う顔を見たら、これでもう本当に終わりなんだ、と。せっかく撮った写真だったのに、涙が止まらなくて。ひどい顔になっちゃいました」
それからも泣き続け、選手村の部屋に戻った古賀に、同部屋だった荒木が言った。
「もう“痛い”って言っていいんだよ。紗理那、よく頑張ったね」
負けたこと。「頑張った」と称えてくれるキャプテンの最後がこんな試合になってしまった後悔。足首の痛み。最後の最後、古賀は泣きながら初めて言った。
「痛かった。めちゃくちゃ痛かったです」
古賀の、東京五輪が終わった。
私、何のために復帰するの?
不完全燃焼のまま五輪を終え、また次を見据える。
言葉にすれば簡単だが、感情と行動を伴わせるのは容易ではなかった。
「とにかくバレーボールをやりたくなかった。正直に言うと、私、何のために復帰するの? と思っていました。足首は腫れているし痛いんだけど、あー腫れてるわ、って思うだけ。ボールに触ることもトレーニングもリハビリも、何もしませんでした」
変化が生じたのは、約1カ月に及ぶ長い休みを経て、NECレッドロケッツの練習に合流してからだ。
同じく東京五輪にも出場した山田二千華はすでに合流して練習を再開し、ゲーム形式の練習にも入っていた。その光景を、体育館の隅で古賀は心ここにあらずといった感じでぼんやり視界に入れていたが、ふとした時にスイッチが入った。
チャンスボールの返球が雑になり、相手コートへ1本で返ってダイレクトで決められている。なのに、誰も咎めない。思わず口を挟んだ。
「いやいやダメでしょ、って。今年は『絶対に優勝する』と言っている中で、それでいいの? と思ったんです。純粋に私は『そんなプレーをしているようじゃ勝てない』と感じたし、オリンピックを経験したのに今までと変わらなかったら、チームのためにもならない。自分がよければいいではなく、チームが勝つために、口で言うだけではなく早くプレーで見せなきゃ、リハビリも頑張ろう、と頭が切り替わりました」
東京五輪で味わった苦い経験は、自らの責任や役割を再認識するだけでなく、チームのあり方を考える教訓にもなった。チーム力を高めるために個の力を上げるのは不可欠だが、技術だけでなく個々の意識も変わらなければならない。そのために、リハビリを重ねゲーム形式の練習にも合流した今は、事あるごとに後輩へ“伝える”ことをこれまで以上に深く考え、意識するようになった。