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〈史上初の5連覇〉ホーバスジャパンをどう“進化”させるか? 女子バスケ新ヘッドコーチが見せたその“片鱗”とは
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2021/10/10 17:00
アジアカップで大会史上初の5連覇を飾ったバスケットボール女子日本代表。初陣で見せた「恩塚ジャパン」が目指す戦い方とは
“ホーバスジャパン”をどう進化させるか?
あいまいなミドルのジャンプシュートを禁止するなど、「選択と集中」でチーム戦術をまとめあげたホーバス前HCの手腕は疑いようがない。センタープレーヤーにも3点シュートを求め、最終的にはコートの5人全員がアウトサイドプレーヤーというスタイルをしつこく徹底した先に、世界が驚く結果があった。
片や恩塚HCは「原則」と呼ぶチーム戦術の軸を徹底させたうえで、ホーバス前HCによる選択と集中から一歩進み、選手が自信を持って判断するバスケットを追求することを決めた。こうして迎えたアジアカップでは、グループリーグ3試合目の韓国戦、準決勝のオーストラリア戦、決勝の中国戦と、息詰まる接戦が続いた。それぞれの試合でビハインドを強いられた時間帯もあったが、日本はすべての相手に勝ち切った。
「インド戦以外はしんどい時間が多かった。勝ち切る力をつけることができたのが今回の収穫」と胸を張ったのは林だ。東京五輪の準々決勝ベルギー戦の残り16秒、鮮やかなワンドリブルで相手をかわして3点シュートを打ち、86ー85の逆転勝利の立役者となった林には、ここぞの度胸がある。今回はキャプテンを任されたことでプレッシャーもあると率直にコメントしていたが、その中でも気負うことなく自然体のプレーをし続けたメンタルの安定感は素晴らしい。
「このチームでどれだけ進んでいけるか、どんな結果が残せるかとすごくワクワクした大会だった。選手一人ひとりの勝ちたい思いが強く、その結果が優勝に繋がった」と語る表情もまさに自然体だった。
東京医療保健大学時代から恩塚HCの指導を受けていた永田萌絵は、「(恩塚HCは)基本的なことは変わらないが、精神的な部分、どうやって自分を信じてコートに立てるようになるかという話、メンタル面の話が増えたと感じた。自己肯定感を高める方法などの話を聞いて勉強になっている」と言う。
ホーバスジャパンは金メダルが夢ではないことを東京五輪という大舞台の結果で示した。恩塚ジャパンはパリ五輪で金メダルを獲るための一段高いチャレンジとアジア5連覇を両立させた。ホーバス体制で「100個」用意したというナンバープレーがゼロになることはむろんないが、役割の限定を解除して幅広いプレーを繰り出し、選手自身が判断するバスケットが完成した時の威力は計り知れない。
日本には、今回は招集されなかった高田真希をはじめとする東京五輪銀メダルメンバーの残り7人や、パリへの再挑戦を表明している至宝・渡嘉敷来夢もいる。違う顔ぶれになったときに新しく生まれるケミストリーも楽しみこの上ない女子バスケットボール。理想と結果の両立へ覚悟を見せる恩塚HC、そして選手たちがパリ五輪へのスタートを切った。