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〈違約金相場は225億円説〉マンC移籍かなわず残留もファンは信頼… ハリー・ケインは「トッテナムひと筋」の道を歩むか
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2021/09/06 11:01
マンC移籍ではなくトッテナム残留となったハリー・ケイン。北ロンドンを沸かせられるか
ソン・フンミンも拍手を惜しまなかった
合計スコアを2-1とした2ゴール目は、その26分後。自らのミドルシュートに端を発するチャンスで、こぼれ球を左下隅に流し込んだ。ロ・チェルソのゴールで予選突破が確実になった直後の72分、仕事を終えてベンチに下がるエースには、スタンドの約3万人と同様、タッチラインの向こうで交代を待つソン・フンミンも拍手を惜しまなかった。
メディアには、自ら移籍を望み、予定のプレシーズン合流日に姿を現さなかったケインは、ファンの信頼を取り戻すべく、公式サポータークラブの代表者たちと説明の時間を持つべきだとする意見もあった。しかし、サポーター側に言わせれば、「説明には及ばない」となるに違いない。一軍で主力となった2014年以来、ユース上がりのCFが、国内外で優勝を狙える環境を求める資格を証明してきたことは、長く見守ってきた地元サポーターたちが誰よりも理解している。
もちろん、シティへと快く送り出すつもりだったとまではいかない。
だが、ジョゼ・モウリーニョ体制も昨季途中で短命に終わり、暫定体制下でのリーグカップ決勝で2008年以来の無冠に終止符を打てなかったトッテナムから、そのリーグカップでの4連覇と、5年目のペップ・グアルディオラ体制下で3度目のプレミア優勝を成し遂げたばかりのシティへと心が傾いたケインを、自軍を見捨てようとしたと責めるつもりもなかったはずだ。
10番の背中を押すかのような歓声のボリューム
開幕前週までプレシーズンに合流しなかったことに関しても、がっかりはしても、同じ手段で移籍を強いようとしたエースには、実際にレアル・マドリー入りに繋がったガレス・ベイルという前例がある。
ケインがベンチにもいなかった開幕戦(1-0)では、相手がシティで、しかもリードを維持する展開となり「見てるか、ハリー・ケイン?!」という当て擦りのチャントがホームで繰り返されたものの、ベンチでスタートした翌節ウルブズ戦(1-0)では、ウォームアップに出た時点で名前を連呼され、72分に投入されると盛大な拍手でピッチに迎えられていた。
トッテナムのファンが、いかにケインを信頼し、いかにゴールを決めて欲しがっているかは、続くカンファレンスリーグ戦のキックオフから20秒足らずで、ライン越しのボールに走り込んだ10番の背中を押すかのような歓声のボリュームが物語っていた。
こうしたファンの反応にも、手の平を返すように変わると呆れる声が外野にはある。だが個人的には、微笑ましく思える。それが、とにかく「我がチームありき」なサポーターという存在の美しさだと言ってもよい。ケインが持つワールドクラスの実力は誰もが認めるところであり、そのCFが絶対的にトッテナムに必要である事実は、好スタートを切った今季も明白だ。