「何日も泣いて過ごした。そしてついに勝ったんだ（微笑）。フランス杯は子供のころからの夢だった。優勝チームのキャプテンがスタンドでカップを掲げるのを、テレビで毎年見ていた。自分がいざスタンドにのぼったときには、興奮してフランソワ・ミッテラン大統領の顔をまともに見られなかった。身震いが止まらずに、大統領とはほんの少し話しただけで、トロフィーを掲げるのに夢中だった。しばらく前にユーリ（ジョルカエフ）とその話をした。彼もよく覚えていたよ」

　2019年にディブはコートジボワールを訪れ、今は同国に居を構えているフォファナのもとを訪問した。ふたりの会話は自然と91年6月8日の決勝へと向かった。

「最高の思い出だ」とフォファナが当時を振り返る。

レーニエ大公に寄せられた期待

「モナコにとって優勝は大事で、絶対に勝たねばならなかった。胸を張って王宮に凱旋したかった」

　モナコはそれまで、すでに4度のフランス杯優勝を重ねていた。最後の勝利は6年前で、決勝でパリ・サンジェルマンを1対0と下した試合では、ジャンリュック・エトリがすでにキャプテンの腕章を腕に巻いていた。エトリがマルセイユ戦当日のエピソードを語る。

「誰にとっても大事な大会で、優勝はなかば使命のようなものだった。決勝を前に、昼食を食べに外出した。すると電話がかかってきた。電話の相手はレーニエ大公だった。彼は僕に全員のコンディションを尋ねて、チームはどんな状態にあるのか、準備は万全かと次々に質問した。そしてマルセイユに負けたら悪夢だとつけ加えた（笑）。モナコとマルセイユは本物のライバル関係にあった。陛下は最後に、自分は常に僕らをサポートしているからと言って電話を切った。でも僕は、チームメイトに余計なプレッシャーを与えたくなかったから、陛下との電話の内容は黙っていた。それでも誰もが、陛下が心から勝利を願っていることをよくわかっていた」

　1980年には当時2部のオルレアンを3対1と破り、モナコは3度目のフランス杯優勝を遂げた。以来、この大会へのモチベーションはずっと変わっていない。

「マルティーグとのラウンド32第1戦の前に、レーニエ大公がチームの全員を昼食に招待した」とかつてのキャプテンで、当時はアーセン・ベンゲルのアシスタントコーチを務めていたジャン・プティが振り返る。

【次ページ】　喜びに沸くモナコ公国