甲子園の風BACK NUMBER
星野仙一「あいつは、ええ指導者に」 野村克也も認めた「野球頭脳」…中谷仁監督42歳に“新世代の名将”感〈智弁和歌山〉
text by
間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama(Center),Sports Graphic Number
posted2021/08/28 17:40
楽天時代には星野仙一、野村克也という2人の名将から評価された中谷仁監督。母校・智弁和歌山で、その才覚が花開こうとしている
「監督というより、口うるさい主将」
プロ野球、高校野球、少年野球。星野監督が、どんなカテゴリーの指導者をイメージしていたかは分からない。中谷監督の資質は、高校野球の場で花開いた。就任3年目で夏の甲子園で決勝進出。指揮官は「子どもたちと一緒に何がいいのか模索しながら追求しているところで、自分の指導方針はまだないと思います」と謙遜するが、近江との準決勝も「らしさ」は全開だった。
中谷監督は自身の役割や立場を「監督というより、口うるさい主将」と話す。ベンチではネクストバッターズサークルから一番近いところに立ち、三振に倒れた選手やバントを失敗した選手を呼び寄せて声をかける。
現役時代に捕手だったこともあり、扇の要を務める渡部海とはジェスチャーを交えてイニングの合間に頻繁に話をする。アウトを奪えば大きくうなずいて顔の前で手を叩き、ベンチのメンバーも巻き込んでチームを盛り上げる。ネクストバッターズサークルから一番遠いところに立ってサインを出す近江・多賀章仁監督や、ベンチのど真ん中で腕を組んで仁王立ちする高嶋仁前監督とは違った、選手との距離感を感じさせる。
監督としてのタクトが冴えた5回の守備
近江戦は、「主将」としてだけではなく、監督としてのタクトもさえた。試合のポイントとなったのは、5回裏の守備。1点リードの1死一塁で、近江の2番打者を迎えた。
盗塁、エンドラン、犠打。様々な作戦が考えられる場面。3番には、前の打席でタイムリーを打っている投打の要・山田陽翔が控えており、ピンチを広げたくない。ベンチを見る捕手の渡部に対し、中谷監督がサインを出す。
初球。渡部は中腰で構えて、外角高めにボールを外させる。バントの構えをする打者の様子を見た。そして、2球目。バントで目の前に弾んだ打球を渡部が捕球し、素早く二塁へ送球する。一塁もアウトにし、山田に打席を回さなかった。
智弁和歌山は、4回に2死二塁、5回に1死満塁の得点機を逃しただけに、ここで失点すれば、試合の流れを持っていかれる可能性があった。併殺で切り抜けた直後の6回。2死一、二塁から、大仲勝海が二塁打を放つ。相手に大きなダメージを与える2点を追加。次の1点を勝敗のポイントにしていた指揮官に選手が応えた。