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星野仙一「あいつは、ええ指導者に」 野村克也も認めた「野球頭脳」…中谷仁監督42歳に“新世代の名将”感〈智弁和歌山〉
posted2021/08/28 17:40
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Hideki Sugiyama(Center),Sports Graphic Number
星野仙一さんは天国で、先見の明を自画自賛しているだろうか。智弁和歌山が決勝進出を決め、闘将の言葉を思い出す。
「見てみい、俺みたいに男前じゃないが、ええ顔しとるやろ。あいつは、ええ指導者になる。年より老けて見えるのは、それだけ財産になる貴重な経験をしとるからや」
「あいつ」とは、智弁和歌山を指揮する42歳の中谷仁監督だ。夏の甲子園で智弁和歌山の主将として優勝した中谷監督は、ドラフト1位で阪神に入団。2005年オフに楽天へ移籍し、2011年は星野仙一監督の下でプレーした。
「あいつは“打たれたら捕手の責任”という覚悟が」
中谷監督はプロで成功したとは言えなかった。
通算111試合で、打率.162、4本塁打。2011年も出場は11試合にとどまった。ひと昔前の捕手は、守備力があれば出場機会があった。しかし、「打てる捕手」が主流となり、星野監督も捕手に打力を求めた。指揮官が「昭和の時代だったら、もっとマスクをかぶっていた」と捕手・中谷を評価した理由は、人間力と洞察力だった。
「あいつは上辺だけの言葉じゃなくて、『打たれたら捕手の責任』という覚悟がある。それから、年下の投手への声のかけ方とタイミング。投手陣の頭や心の中を日ごろから考えているから、優しく伝えて投手を気分よくする時と、厳しく伝えて喝を入れる時の判断が絶妙。それができるから、投手と信頼関係が築ける」
自分のことへの優先順位は高くない。覚悟を持って投手やチームに尽くした姿に、星野監督は指導者の資質を感じていた。険しい顔も笑顔も、どちらも「ええ顔」と話した。顔には、人間性や人生が刻まれる。