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〈平成最後の甲子園ヒーロー〉18歳の吉田輝星が語っていた“農業高生のプライド”「高校球児らしいといえば高校球児らしいでしょ」
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byKeiji Ishikawa
posted2021/08/15 11:04
夏の甲子園100回大会で一躍ヒーローとなった18歳吉田輝星が語っていた“隠さないプライド”とは
「開会式のときにそう言ったのは、半分は冗談でしたけど、そうなりたいという思いを言葉にしたということもありました。人間って発言すると、自分で言ったからにはそうならなきゃいけないと思うはずなんです。甲子園を目指すのも日本一になるのも、そういうところから始まっていました。秋田であっても、自分が150kmを投げるとか、すべての試合で2ケタ三振を奪うとか、そういうことが実現できれば全国でベスト4に行けるという思いはありました」
甲子園でベスト4なら、34年前の金農旋風の再現になる――2018年7月15日、最後の夏に挑んだ金足農の吉田輝星は、秋田大会の初戦となる秋田北鷹との試合で150kmを叩き出した。そして決勝までの5試合のうち、7回コールドで完封した準々決勝の秋田商戦を除く4試合で2ケタ奪三振を記録。吉田は大会注目の150km右腕として、ついに夏の甲子園へ乗り込むことになったのである。
150kmが出た瞬間に「ムダじゃなかった」
「始まる前の甲子園見学で、全員がそれぞれの守備位置について伝統の声出し(正座して右腕を上げながら絶叫する)をしたんですけど、あのときのことは印象に残っています。キャッチャーのほうを向いていたんですけど、バックネット裏の席が低いなと……甲子園で勝って校歌を歌ったときは外野スタンドが広くて遠くて、どこまでも引き込まれそうだなと思いました」
2018年8月8日の鹿児島実との試合から8月21日の大阪桐蔭との決勝までの14日間。秋田で発生した上昇気流は、吉田という熱とともに甲子園で旋風を巻き起こした。2回戦の大垣日大戦では「ショートバウンドになるのかなと思うボールがグーッと伸びて、キャッチャーが捕り損なう快感(笑)」を味わうほどのボールが投げられた。3回戦の横浜との試合では9回になった161球目に150kmを記録。底知れぬ力を見せつけた。吉田は言った。
「秋田北鷹戦の150kmは出そうと思って、無理やり思いっ切り投げて出したんですけど、横高のときは8回までに140球も投げていて、140kmが出るか出ないかという疲れた状態だったんです。でも、そのおかげでムダのないフォームになっていたんでしょうね。リリースのところだけ力入れて踏ん張ったら150kmが出たんです。秋田大会から一人で投げてきて球数もいっぱい投げましたけど(甲子園で881球、秋田大会からだと1517球)、思ったのは、今までの努力がムダじゃなかったということ。自分、努力が報われたのは初めてだったんです。あのくらいやって初めて現実になるんだなという喜びを実感できたことが大きかったと思います」
「単純に勝てるという自信があったんです」
訊いてみたかったのは、2ランスクイズで逆転サヨナラ勝ちを決めた準々決勝の近江との試合でのことだ。9回裏の攻撃中、ベンチの吉田はヘルメットをかぶって準備をするキャッチャーの菊地亮太と肩を組んで、ニコニコしながら何かを語り掛けていた。そこには1点ビハインドという悲壮感は、欠片も感じられなかった。いったい、何を話していたのか、吉田にぶつけてみた。すると吉田はこう言った。