「最高ですね。反省とかはない」

　井上と、高校を卒業してプロになった弟の恒成はプロのリングでめざましい活躍を見せた。井上は押しも押されもせぬトップスターとなり、活躍の場は世界に広がっている。そして井上に続いて世界3階級制覇を達成した恒成は、いつしか兄に代わってプロの偉大な先輩である井上を追いかけるようになった。

出場できなかったリオ五輪から5年。悲願のメダル獲得だった

　田中はコロナ禍でオリンピックが1年延期となり、練習環境がままならなくなる中、父と弟が練習するプロのジムでトレーニングをすることを選択した。プロ世界王者である恒成は練習パートナーとして絶好の相手だ。弟からのアドバイスを素直に聞き、弟が猛練習する姿に大いに触発された。田中は延期となったこの1年でさらにパワーアップし、オリンピックの舞台を迎えたのである。

　大会前の記者会見で田中は「派手な試合をやりたい。1戦1戦倒しにいき、それが勝ちにつながると思う」と話した。両国国技館のリングに上がった田中はその口にしていた通りのファイトを貫いた。迷いはなかった。大きな声を上げながら一発、一発、力強いパンチを打ち込んだ。強敵を次々と倒して準決勝まで進出した。最後はフィリピンのカルロ・パーラムに敗れたものの堂々の銅メダルだった。

　試合後のテレビインタビューで田中は「最高ですね。反省とかはない。今日できることをやったかなと思う」と晴れやかな表情を浮かべた。井上尚弥の背中を追いかけたあの日々から10年余り。地道にコツコツと積み上げてきたボクサーがオリンピックという舞台で大きく輝いた。

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