炎の一筆入魂BACK NUMBER
悔しい「二刀流」…捕手と一塁併用でキャリアハイの打撃成績でも、カープ坂倉将吾が目指すはあくまで「捕手一本」
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PHOTO
posted2021/07/14 11:02
先発マスクを被った4月3日のDeNA戦では、今季1号満塁本塁打を放った
会沢が再び離脱した6月16日以降、広島のスタメンマスクを被ったのは、石原が10試合、坂倉が8試合、磯村嘉孝は4試合。気付けば森下は石原、九里は磯村と組み、坂倉は会沢とバッテリーを組んでいた大瀬良大地と組んでいる。
日替わり先発起用に首脳陣は「競争」と口にするが、チームとしての会沢に次ぐ正捕手の育成のビジョンは見えづらい。そんな状況も、坂倉自身が首脳陣の信頼を勝ち取れなかったことが遠因と捉えられる。
目の前に立ちはだかる壁は、一足飛びに超えられるものではない。やれることは、目の前のことに集中することしかない。捕手としての出場数が増えない中、開幕から安定していた打力の評価は高く、一塁での出場を増やした。
2番手捕手と期待された今春のキャンプでは、捕手の練習しかしていない。一塁の練習を始めたのはシーズン開幕後の4月6日から。外野に挑戦した19年とは捕手としての経験値が違うものの、一塁を受け入れるしかない。「自分ができることをやるしかない。そこに100%集中したい」。ポジションも、打順も、自分で決めることはできない。
心はいつも捕手ひとすじ
昨季まで打率を下げる要因となっていた苦手左腕に対し、今季は右投手時よりもややオープン気味に構えることで対策した。今季対左投手の打率は右投手の打率.287を上回る.362。シーズン打率3割超と、打者としての成長の跡は見える。
坂倉の姿に、河田雄祐ヘッドコーチは「俺には高木大成にみえるんだよな」と、以前所属していた西武で捕手出身ながら一塁手で中軸を任された中心選手の姿を重ねている。
坂倉は一塁手として防具を付けていなくても、心と頭は捕手として守っている。「捕手がマウンドに行ける回数は限られるから」と、捕手ならではのタイミングで投手に歩み寄り間を取る。声をかける。マスクを被る石原や磯村の配球も頭に入れる。ショートバウンドの送球を安定して捕球するハンドリングは捕手練習のたまものだろう。
ファーストミットはまだ、曽根海成に借りた物を使っている。「使いやすいんで」と言うものの、そこににじむのは捕手としてのプライドだ。二刀流として存在感を増す日々も、真の一刀流となる日を信じ、捕手道を歩んでいく。