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エリクセンはメンバーに残したまま、イングランドとの決戦へ…寒村育ち“バイキングの末裔”デンマークの勇猛果敢な戦い
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2021/07/07 17:00
優勝した1992年大会以来となるベスト4進出を果たしたデンマーク。初戦のアクシデントを乗り越え、勇猛果敢な戦いを続けている
長い冬の間、通常の練習場は雪で使い物にならない
「僕の故郷もとても小さな村だ。海の近くでね。住民皆、顔見知りさ」
雄大なフィヨルドに抱かれた故郷の漁村を思い出すのは代表の新アイドル、MFミケル・ダムスゴールだ。
チェコ戦の当日に21歳になったばかりの童顔ドリブラーは、代表の柱だったMFクリスティアン・エリクセン離脱後のチームに欠かせない攻撃のキーマンとなっている。4-1で大勝したロシア戦でも自ら得点し、ゴールラッシュの口火を切った。
カスパー・ユルマン監督はこの麒麟児に親しみを込め、ブラジル風に「ダムシーニョ」と呼ぶ。国内での代表ユニフォーム一番の売れ筋は、彼のつける14番だという。
間違いなく今大会のサプライズ・プレーヤーの1人であるダムスゴールの活躍は、故郷に1面だけあった人工芝グラウンドのおかげかもしれない。長い冬の間、通常の練習場は雪でドロドロになって使い物にならないからだ。
「雪で外が真っ白になっていても、友だち一人ひとりの家の前で『おーい、行こうぜー』って声をかけながら集まって、一緒にグラウンドへ通った。何でもないようなことだけど、人生の大事な思い出だ」
不慮の事故でチームから離脱した司令塔エリクセンの実家も、首都コペンハーゲンから東に200km離れた人口1万5000人ほどの小さな村にある。
今から10年前、エリクセンはアヤックス時代にクライフ財団からオランダ国内の最優秀若手選手として表彰された。表彰の副賞は人工芝グラウンド施設の建設で、エリクセンは故郷の学び舎近くに立地を指定した。小さな村には立派すぎるほどのグラウンドの運営は恩師に委ねられ、今では5歳から16歳の子供たちが近隣から500人も集まる。
ユルマン監督はシメオネに守り方を学ぶ
小さな村々と代表での檜舞台がつながっているデンマークのサッカーはそう難しくない。
世界王者フランスや優勝候補ベルギーが目指していた形に比べれば、かなりシンプルだ。エリクセンありきの4-2-3-1を長く採用してきたが、3-4-3へ変容し、基本に忠実な縦への高速展開と正確なクロスの多用が戦い方のベースになった。
無論スカンジナビアの男たちが真っ向からの肉弾戦を恐れるはずもない。攻めも守りも躊躇しない今のデンマークは、国際大会の対戦相手として相当に厄介だろう。
ベスト16ラウンドでウェールズに4発大勝し、強豪オランダを下した伏兵チェコとの準々決勝も2-1で抑えきって完勝を収めた。