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「ゼリー状の“それ”が自分の右目だと信じきっていた」失明危機に陥ったフットボーラー・松本光平が語る“光を失った瞬間”の激痛

posted2022/03/15 11:00

 
「ゼリー状の“それ”が自分の右目だと信じきっていた」失明危機に陥ったフットボーラー・松本光平が語る“光を失った瞬間”の激痛<Number Web> photograph by Tetsuichi Utsunomiya

オセアニアのクラブを中心に独創的なキャリアを重ねてきた松本光平。事故から約1カ月後の2020年6月、右目は眼帯でふさがれていた

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松本光平

松本光平Kohei Matsumoto

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Tetsuichi Utsunomiya

2020年5月18日、ニュージーランドのハミルトン・ワンダラーズに所属していた日本人フットボーラーの松本光平は、トレーニング中の事故によって視力の大部分を失った。コロナ禍による厳戒態勢のなか、遠い異国の地で味わった想像を絶する痛みと、「手の施しようがない」という担当医師の通告。2022年1月に上梓された本人の著書『前だけを見る力 失明危機に陥った僕が世界一に挑む理由』(構成:宇都宮徹壱/KADOKAWA)の一部を抜粋し、事故当時の記憶を振り返る。(全2回の1回目/後編へ)

運命を変えた2020年5月18日

 その日──5月18日も、いつものルーティーンをこなしていました。

 地下室に、広背筋を鍛えるために使っていた、トレーニング器具があったんです。自分の身長よりも高い壁面に、何本も束ねられた細いチューブが取りつけてある、これまた手作り感満載のものだったんですけど。

 壁側に顔を向けて、チューブを後ろに引くような感じで、1時間くらい背中に負荷をかけていたんです。うっすらと汗が浮き出るまで続けていました。

 そうしたら「バチーン!」という音が鳴って──。

 本当に、一瞬でした。

 これまで感じたことのない、激しい痛みに襲われました。自分では、痛みに強いほうだと思っていたんです。それまでにも、肩とか膝とか足首とか、いろんなところを怪我してきたので。でも、あのときはさすがに変な声が出ました。

 あまりの痛さに、しばらくその場でうずくまっていました。視界が真っ白な状態で、それで目がつぶれたことが理解できました。

 あとでわかったんですが、チューブを固定していた留め金が外れて、それが僕の右目に直撃していたんですよ。そして左目には、チューブが当たっていたみたいで。「みたいで」というのは、それに気付かないくらい、とにかく右目が痛すぎて……。

 少し落ち着いてから、自分の目がどうなっているのか、鏡で確認してみることにしました。そうしたら、鏡が曇っていたんですよ。よく見えないので、ゴシゴシ拭いたんですけど、やっぱり曇っている。実は鏡が曇っているんじゃなくて、僕の左目もダメージを受けていることが、ようやく理解できました。

 とはいえ、絶望とか怒りとか、そういうネガティブな感情は起こらなかったです。むしろ今でも「あの子たちじゃなくて自分で良かった」と思っているくらいで。

【次ページ】 「これ、僕の右目ですから元に戻してください!」

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