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ドラ1だった“78歳おじいちゃんコーチ”松岡功祐が独立リーグでノックを続けるワケ「私にも夢があるんですよ。それは…」
posted2021/07/20 17:02
text by
吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki
photograph by
Eijinho Yoshizaki
「現役時代の通算ホームラン数は、3本なんですよ」
そう言い、ガハハハと高笑いする。
「1本目は江夏豊から。球が凄すぎて、とにかく振ったら両翼88メートルと小さい川崎球場のスタンドに入った。2本目は堀内恒夫から。ランニングホームランですよ。センターライナーが後輩の高田繁のところに行ったんですけど、天然芝だった後楽園球場で打球が跳ねたおかげですね。3本目は大学の後輩の星野仙一から。当時中日球場と呼ばれていたナゴヤ球場でね。あの後会っても『松岡さんに打たれた~』と何度も悔しがっていましたよ」
エピソード、古っ。もはや歴史的証言。「相手のエースからしか打たないから、3本なんですよ」「少ないから全部覚えてます」と自分イジりを披露し、また高笑い。2本目の後楽園球場では当時、ホームランが出たらカネボウの鐘が鳴っていたのだが、「ベンチに戻ってもなかなか鳴らなかったんですよ。『ワンヒットワンエラーだな』という話をしていたら、遅れて鳴って。大洋ベンチは大爆笑でした」という。
この言葉、れっきとした「現場」の人のものだ。
今年開幕した九州アジアリーグに所属するプロ野球球団、火の国サラマンダーズの松岡功祐総合コーチ。御年78歳、1943年2月生まれ。
今季誕生した新球団で、今もノックバットを握る日々だ。
プロ野球最年長コーチ、ここにあり。
西武、ソフトバンクなどで捕手として活躍した細川亨監督、ソフトバンク、オリックスで抑えの切り札だった馬原孝浩投手ピッチングGMらとともに、若い選手たちをNPBに送るべく、泥まみれの日々を送る。
「打球の一つ一つがありがたいことなんだな」
「お~い 二日酔いの酔っ払いじゃないんだから」
試合前の練習で、ノックする選手たちに声をかける。野手に至近距離から連続でゴロを打つ。若者の足がフラフラになるほどに、続けて打つのだ。試合前練習でのノッカー、そして試合時の三塁ベースコーチが松岡の現在の持ち場だ。
チームのキャプテン、瀬戸口樹外野手(25)は言う。
「ノックでは普通に外野まで飛ばしますからね。まずその点が、年齢を考えると信じられない。そしてチームのなかでも一番元気で、一番声が出る方なんです。先頭を切って声を出す、ということに関しては選手も追いつけないんですよ。時々、78歳だということを忘れてしまいます。そう考えると打球の一つ一つがありがたいことなんだな、と思いますよね」