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肘は「かなり使い古されていた、と」手術を終えたDeNA平良拳太郎に、今永昇太が贈った“粋なプレゼント”とは?
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byKYODO
posted2021/07/05 11:01
3月28日の巨人戦で肘に違和感を覚え、結果トミー・ジョン手術を決断した平良選手。長く続くリハビリのあとの捲土重来を期す
「もし次回の登板で駄目だったら、次の段階に進んだほうがいい」
抹消から1カ月以上経った5月16日に開催されたイースタンのヤクルト戦、平良は3回62球を無失点で終えた。ここでは強めに投げても痛みは出なかった。安堵したのもつかの間、次の5月23日の西武戦で試合途中に痛みが出てしまった。平良は悟り、覚悟をした。
「自分としては、いいかげんはっきりとさせたかった。とにかく行けるところまでいく。それで痛かったので決心がつきました」
同じ症例を経験してきた田中と東の存在は大きく、親身に話を聞いてくれた。彼らの「やるならば早くやったほうがいい。どこかで決心しないといけない」という言葉が、平良の背中を押した。
簡単ではない決断だったが、平良はすっきりとした表情で次のように言うのだ。
「チームの力になれず悔しい、申し訳ない気持ちでいっぱいですが、痛みをごまかしながら通用する世界ではないことも理解しています。だから、ここはしっかりと自分に向き合いたい。復帰はずいぶん先になりますが、リハビリとトレーニングを重ねて、この怪我を意味あるものにするため強い下半身、強い体幹、股関節の可動域など、自分のピッチングスタイルに合ったものを作り上げていきたいです」
おそらくは2023年シーズン開幕を目指すことになるだろう。それにしてもピッチャーにとっては切っても切れない肘との付き合い。平良はギプスを見つめて言うのだ。
執刀医からは「かなり使い古されていた、と」
「思い返せば中学高校のときから肘に少なからず痛みはあったのですが、当時は大会期間中だけですから何とか乗り越えられました。けどプロになると休みがなく、体の強さが求められます。その強さがないと勝てる投手にはなれない」
平良は自分に言い聞かせるように語ると、ふと表情をゆるめた。
「手術をした先生は、開いた靭帯を見て、かなり使い古されていた、と教えてくれました。何度も炎症と修復を繰り返してきた靭帯だったと。これまで20年間、野球をやらせてくれて、本当に頑張ってくれたなって。今は新しい肘を手にいれたと思って、これからの野球人生、一日でも長く過ごせたらなと……」
目は真っすぐ前を向き、声には張りがあった。完全復帰までは難行苦行といわれるリハビリへ覚悟はできているようだ。
「あっ、そうだ。これ見てくださいよ」