濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
那須川天心「もうやりたくないです(笑)」 格闘技史上初の“1vs3マッチ”はなぜ神童の調子を狂わせたのか
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2021/06/15 17:01
那須川天心はRIZIN東京ドーム大会で異例の1vs3マッチに挑んだ
「いつもの試合より疲れましたね」
その一方、変則的な試合形式の難しさも感じたようだ。ラウンドごとに相手が変わる闘いは、普通の3ラウンドとはわけが違う。自分が疲れても“フレッシュ”な状態の敵と闘い続けなければいけない。相手は全エネルギーを3分間にぶつけてくる。しかも体格もファイトスタイルも違う。
「作戦は立てられないです。作戦というのは3ラウンドなり5ラウンドあるから立てられるもので。1ラウンドだったら何をしてくるか分からない。試合を組み立てるというより、相手に対応するのに精一杯で」
いつもの試合なら「序盤から同じ箇所を狙って攻め、終盤に倒す」、「狙った技で倒すために違う場所にフェイントをかけ、攻撃を散らす」といった組み立てができるが、1人1ラウンドでは“その場”の攻防しか成立しないのだ。
「体重差も感じましたし、パンチの打ち方が全員違う。(警戒して)いつもより距離を取らないといけない。でも1ラウンドしかない。HIROYA選手の場合は10kg以上の体格差がある(HIROYAのみ規定体重75kg。グローブハンデあり)。だから攻撃をもらってはいけないんだけど、攻めなくてはいけない。いろんな葛藤があって、いつもの試合より疲れましたね」
「1ラウンドの前半はガチガチ。これはヤバいなと」
力みすぎた、動きが硬かったとも言う。試合の、そして大会の主役として「全員KOしなければ」というプレッシャーがあったのかと聞くと「そうなんですよ」と那須川。
「だから力んじゃったんです。1ラウンドの前半はガチガチ。これはヤバいなと思って切り替えました」
こういう闘いも冒険的でいい。今後も絶対にない経験ができた。「こんなことできる人、なかなかいないでしょ」と自分でも思う。そしてその上で「もうやりたくはないですけど」と那須川は笑った。テレビ向けの変則的な“企画もの”は、実は那須川天心の調子を狂わせるほど難しいものでもあったのである。
だからこそ、それは“挑戦”になった。メチャクチャだと思っても、やらないよりはやったほうがいい。常識にとらわれる必要はない。那須川はそう考える人間だ。