濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
那須川天心「もうやりたくないです(笑)」 格闘技史上初の“1vs3マッチ”はなぜ神童の調子を狂わせたのか
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2021/06/15 17:01
那須川天心はRIZIN東京ドーム大会で異例の1vs3マッチに挑んだ
那須川を見て真っ先に感じたのは“デカさ”
リングに上がった那須川を見て真っ先に感じたのは“デカさ”だ。今回の体重リミットは62kg。ベスト体重の55kgよりはるかに重い。準備期間の短さもあり、絞り切れていないわけだ。大崎も同じだった。
それでも、彼らは見応えのある攻防を展開してみせた。大崎の右ストレートが速い。対する那須川はアッパーが冴える。HIROYAとの2ラウンドはより動きを増し、右アッパーから左ボディで転倒させる。レフェリーはこれをダウンと判定した。ラウンド終了間際には、美しいフォームでスーパーマンパンチ。最終3ラウンドは連打で圧倒する。所はパンチが大振りになっていたが、持ち前のアグレッシブさを変則ルールでも発揮した。
勝ちも負けもなく、選手の戦績に残らない闘いで、結果としては全ラウンドKOなし、スリップ気味のダウンが1つ。その内容が一般層に届いたかどうかは分からない。苦肉のマッチメイクは、大成功とは言えなかった。
大崎は那須川相手に「何もできなかった」
ただ、試合後になって見えてきたこと、確認できたこともある。その1つは、インタビュースペースに現れた大崎の鼻が曲がっていたことだ。
「めちゃくちゃ痛いです。たぶん折れてると思います」
大崎が健闘したように見えた1ラウンド、実際には那須川が大ダメージを与えていたのである。大崎は言った。
「倒す気持ちで勝ちにいったんですけど。(那須川は)速くて当てさせてくれなかった。何もできなかったという印象です。判定はないけど負けたなと。悔しいです」
那須川は那須川で、別の思いを抱いていた。試合後、大崎と話していた内容を聞かれてこう答えている。
「早い段階で名乗りをあげてくれたので、なぜやろうと思ったの、と。“チャンスだと思いました”と言っていて、昔の僕に似てると思いましたね。枠からはみ出さないといけないというのは僕もずっと思っていたこと。僕が(ボクシング転向で)いなくなっても、そういう選手がいるのは嬉しいと。そういう話をしました」